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「ChatGPTで脳が衰える」は本当か:MITの脳波研究(2025年6月)が示したことと、その後

使ったのは脳スキャンではなく脳波計で、「脳が初心者に戻った」とも書かれていません。話題になったMITの研究を、論文と著者のFAQで読み直します。

Modern-G 編集部更新 約8分で読めます
上から見た頭部の輪郭に脳波計の電極の位置が並び、電極どうしを細い曲線が結ぶ。右に3本の波形が並ぶ、科学図版風のイラスト
イラスト:Modern-G

2025年6月、MITメディアラボの研究者らが「Your Brain on ChatGPT」という論文を公開しました。ChatGPTを使って小論文を書いた人は、道具を使わずに書いた人より脳の領域どうしの結びつきが弱かった、という内容で、「ChatGPTで脳が衰える」という見出しとともに世界中で報じられました。

Modern-Gも2025年7月3日にこの研究を紹介しましたが、論文に書かれていない言い回しをいくつも使っていました。この記事は2026年10月に論文と著者のFAQを読み直し、誤りを正したうえで、その後の反論や後続の研究を加えたものです。

どんな実験だったのか

論文はarXivに2025年6月10日に投稿されたプレプリントで、学術誌の査読はまだ通っていません。第一著者はMITメディアラボのNataliya Kosmyna氏で、Pattie Maes氏らMIT、ウェルズリー大学、マサチューセッツ芸術デザイン大学の研究者が名を連ねています。

参加者はボストン周辺の5大学から集めた18〜39歳の54人です。SAT(米国の大学入試)形式のお題で、1本20分の小論文を書きました。

  • 参加者を「ChatGPTを使う」「検索エンジンを使う」「道具を使わない」の3組に分け、1〜3回目は同じ条件で1本ずつ書く
  • 4回目は希望者18人が参加し、ChatGPTの組は道具なしで、道具なしの組はChatGPTを使って書く。検索エンジンの組には4回目がない
  • 書いている間、全員が32チャンネルの脳波計(EEG)を頭に着け、脳のどの部分がどの部分に影響を与えているか(結合)を測る
  • 書いた文章は英語教師2人と、研究者が作ったAIの採点役が評価し、自然言語処理でも分析する

研究は4か月にわたって行われました。

実験の流れの図。1〜3回目は54人がChatGPT、検索エンジン、道具なしの3つの組に分かれて同じ条件で1本ずつ小論文を書く。4回目は18人が参加し、ChatGPTの組は道具なしで、道具なしの組はChatGPTで書く。検索エンジンの組は4回目なし。1本20分で、全員が32チャンネルの脳波計を装着。
「Your Brain on ChatGPT」の実験の流れ。arXivの論文(v2、2025年12月31日)をもとに作図Modern-G作図

分かったこと

論文の要旨が挙げる主な結果は次のとおりです。

  • 脳の結合は、道具なしの組がもっとも強く広く、検索エンジンの組が中くらい、ChatGPTの組がもっとも弱かった。論文は「外部の道具を使うほど、認知の活動が縮小した」と書いています
  • ChatGPTの組は、書いた直後に自分の文章を引用するのが苦手だった。1回目では18人中15人(83.3%)が引用できず、ほかの2組では各18人中2人でした。文章を正確に引用できたかを問う別の設問では、ChatGPTの組で正確に引用できた人は0人でした
  • 「自分の文章だ」という感覚(所有感)は、ChatGPTの組がもっとも低く、道具なしの組がもっとも高かった
  • ChatGPTの組の文章は、同じお題の中で使う固有名詞や言い回しがよく似ていた
1回目の小論文の直後に自分の文章を引用できなかった人数の棒グラフ。ChatGPTの組は18人中15人、検索エンジンの組は18人中2人、道具なしの組は18人中2人。
書いた直後に自分の文章を引用できなかった人数Modern-G作図

4回目の結果は、組によって分かれました。ChatGPTから道具なしに移った組は、アルファ波とベータ波の帯域で結合が弱く、論文はこれを「関与が足りない状態」と表現しています。反対に、道具なしからChatGPTに移った組は、記憶の想起が良く、検索エンジンの組に似た後頭・頭頂部と前頭前野の活動が見られました。

著者はこうした傾向を「認知負債(cognitive debt)」と呼んでいます。外部のシステムに頼ることで、自分で考えるための手間のかかる処理が置き換えられ、目先の負担は減るものの、あとで代償を払うことになる、という見方です。

旧記事の誤り

旧記事にあった「AIへの依存は確実に脳の劣化を招く」「教師もAI採点や検出に頼るようになっている」という記述も、論文の内容ではありません。研究で教師とAIが使われたのは、小論文を採点する道具としてです。

この研究から言えないこと

論文が話題になると、「ChatGPTで頭が悪くなる」という要約が広がりました。著者はプロジェクトサイトのFAQで、「stupid」「dumb」「brain rot」「harm」「damage」といった言葉を使わないでほしい、論文ではそうした語彙を使っていない、と書いています。多くのメディアや人がLLMで論文を要約したことが「雑音を増やした」とも述べています。

著者自身が挙げている主な限界は次のとおりです。

  • 参加者が少なく、近い地域の大学に偏っている
  • 使ったLLMはChatGPTだけで、ほかのモデルにそのまま当てはめられない
  • 小論文を書くという一つの課題で、アイデア出しや清書などの工程に分けていない
  • 脳波計は脳の深い部分(海馬など)の働きを細かく捉えられない。fMRIは今後の課題としている

つまりこの研究は、「20分の小論文をChatGPTで書いている間は、自分で書くときより脳の結合が弱い」という観察を、少人数で示したものです。日常的にAIを使うと長期的に脳が変わる、という結論までは示していません。

その後の動き(2026年10月時点)

論文の改訂と査読

論文は2025年12月31日にv2に改訂されました。2026年10月29日時点でもarXivに学術誌の掲載情報はなく、v2のPDFの各ページには「Preprint, under review(査読中のプレプリント)」と記されています。

反論

2025年12月29日、ウィーン大学とドレスデン工科大学の研究者がarXivにコメント論文を投稿しました。参加者数の少なさを含む研究デザイン、分析の再現性、脳波解析の方法、結果の報告の不一致、手順の透明性の5点を挙げ、十分な検出力には約159人が必要だったと試算しています。結果の一部は「もっと控えめに解釈できる」という指摘で、著者側の公式な回答は見当たりません。

同じグループの研究

FAQで予告された「バイブコーディング(AIに任せてプログラムを書くこと)」の研究は、2026年10月時点で公開されていません。2026年9月1日には、Kosmyna氏らが50人を対象に、制限のないチャットボット、答えを教えずに問い返すボット、脳波で反応を変える家庭教師役を比べた論文を公開しました。直後のテストでは制限のないチャットボットの点数の伸びが最も大きかったものの、著者は「深い学びの証拠ではない」としています。

ほかの研究

AIと考える力をめぐっては、別の方法による研究も出ています。

研究方法と規模主な結果
カーネギーメロン大学とMicrosoft Research(CHI 2025、2025年4月)知識労働者319人への調査(自己申告)生成AIへの信頼が高い人ほど、批判的に考える手間をかけない傾向
ペンシルベニア大学ウォートン校ほか(PNAS、2025年6月25日)高校生約1,000人の実地実験制限のないGPT-4で練習した生徒は、AIを取り上げたあとの試験で、使わなかった生徒より成績が17%低かった。答えを直接教えない家庭教師型では悪影響がほぼ見られなかった
メリーランド大学(IZAワーキングペーパー、2026年10月)大学生2,379人のランダム化比較試験同じ授業の中で比べると、授業に組み込んだAIチューターを使えた学生は最終成績が0.37標準偏差下がった(推定の幅は0.27〜0.37、査読前)

どれも「AIを使うこと」そのものより、「答えを丸ごと任せるかどうか」で結果が分かれることを示唆しています。ただし規模も方法もばらばらで、確かな結論を出すにはまだ早い段階です。

日本の学校では

文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」(2024年12月26日公表)が、2026年10月時点でも最新版です。英語の仮訳も公開されています(概要は2025年4月、本体は2026年3月の日付のファイル)。

AIを使うときに、この研究から持ち帰れること

研究が示したのは、文章をAIに書かせた人ほど、その文章を覚えておらず、自分のものだと感じにくかったということです。編集部としては、AIを避けるよりも、自分で考える工程を残す使い方が、この研究から素直に引き出せる教訓だと考えます。

  • 最初の構成や主張は自分で書き、AIには反論や抜けの指摘を頼む
  • AIの文章をそのまま提出せず、自分の言葉で言い直せるか確かめる
  • 学習の場面では、答えを出させるより、ヒントや問い返しを求める

AIと学びをめぐっては、AI検出ツールに不正を疑われた学生の記事や、AIで開発が19%遅くなった実験もあわせてどうぞ。脳の働きについてはマルチタスクと集中のエッセイでも書いています。

Sources

  1. Kosmyna, N. ほか「Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task」(arXiv:2506.08872、v1 2025-06-10、v2 2025-12-31) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  2. 同 論文PDF(v2) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  3. プロジェクトサイト「Your Brain on ChatGPT」FAQ(Kosmyna, Hauptmann) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  4. MIT Media Lab「Your Brain on ChatGPT」プロジェクトページ (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  5. Stanković, M. ほか「Comment on: Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt When Using an AI Assistant for Essay Writing Tasks」(arXiv:2601.00856、2025-12-29) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  6. Clin Deffarges, Kosmyna, Maes「Socrates went Nuclear: Comparing Interaction Strategies for AI systems in a Learning Context using Brain Sensing」(arXiv:2609.00584、2026-09-01) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  7. Lee, H.-P. ほか「The Impact of Generative AI on Critical Thinking」(CHI 2025、Microsoft Research) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  8. Bastani, H. ほか「Generative AI without guardrails can harm learning: Evidence from high school mathematics」(PNAS 122(26)、2025-06-25、Crossrefの書誌) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  9. Liu ほか「The Effects of Course-Integrated AI Tutoring on Student Performance and Engagement: A Randomized University Trial」(IZA DP No. 18989、2026年10月) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  10. 文部科学省「生成AIの利用について」(Ver.2.0、2024-12-26公表) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)

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