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“AIがハリウッドの逆鱗に触れた日――ディズニーとユニバーサルがMidjourneyを訴えた理由”

2025年6月、ハリウッドがAIに本気で牙を剥いた。

AI画像生成サービス「Midjourney」に対し、ディズニーとユニバーサル・ピクチャーズというアメリカ映画界を代表する2大巨頭が共同で訴訟を提起。その訴状には、「著作権侵害」の4文字が厳しく並んでいる。これまで水面下で静かに進んでいたAIとコンテンツ業界の緊張関係が、ついに表面化したのだ。

訴えの核心は明快だ。Midjourneyが自社の生成AIモデルの訓練にディズニーやユニバーサルのIP(知的財産)を無断使用し、さらにユーザーがそれらのキャラクターに酷似した画像を生成できる状況を放置しているという。

たとえば、ミッキーマウス、バズ・ライトイヤー、アナ雪のエルサ、シュレック、ミニオンといった、世界的に認知されたキャラクターたちがMidjourneyで“AI再現”され、容易に共有可能な状態になっていた。このようなAI生成画像は、Midjourneyの公式サイトにも多数掲載されていたという。

知っていてやった? 創業者の言葉が“明知性”の証拠に

今回の訴訟をより深刻なものにしているのが、Midjourneyの創業者デビッド・ホルツの過去の発言だ。

彼は2022年に「我々はすべてのテキスト、すべての画像、あらゆるデータをかき集めた」と明言し、同年の別のインタビューでも「著作権者の許可を得ずに作品を使っている」と発言していた。

これは単なる偶然や過失ではなく、意図的かつ明確に著作権を侵害していたと判断されかねない。こうした発言は、裁判で「故意の侵害」とみなされる可能性がある。故意である場合、**損害賠償額は最大1作品あたり15万ドル(約1080万円)**に跳ね上がるという。

訴状には、Midjourneyによって生成された画像と、オリジナルのIP画像が並べて比較されており、“酷似”では済まないレベルの一致度が視覚的にも示されている。

ユーザーも共犯? プラットフォームの責任とは

この問題は、単にAIが“模倣”したというレベルにとどまらない。

Midjourneyはユーザーが自由にプロンプトを入力して画像を生成できる仕組みだ。だが、ディズニーとユニバーサルは、Midjourneyには不適切な画像生成を防ぐ制御手段があるのに、それをIPには適用していないと指摘している。

暴力的な表現や差別的コンテンツには制限を設けているにもかかわらず、著作権を侵害するキャラクターの再現については野放し状態。これは、「ユーザーがやってるだけです」との言い訳が通用しない環境だ。

訴えは、Midjourneyのプラットフォーム運営者としての責任、そして収益モデルが侵害画像によって支えられている構造にも言及している。つまり、商業的にIPを“活用”していると見なされているのだ。

「今」訴えた理由――ビデオ生成がトリガーに?

訴訟のタイミングも意味深だ。Midjourneyは、近く動画生成機能のリリースを予定していると報じられており、これがディズニーとユニバーサルの怒りに火をつけたとも考えられる。

静止画よりも映像の方がより多くの著作権・パブリシティ権を侵害するリスクが高く、影響力も大きい。実際、動画でキャラクターが「動く」ことになれば、もはやAIが「二次創作」ではなく「代替制作」を行っていることになる。

AIが“アナ雪の新作”を勝手に作る未来も見え始めている今、ハリウッドが黙っているわけにはいかないのだ。

AIを否定せず、支配しようとする戦略

興味深いのは、ディズニーやユニバーサルが決してAI技術自体を否定していない点だ。むしろ、AIの潜在能力に期待をかけ、積極的に取り入れている。

ディズニーは近年、AIを用いた映像制作支援に多額の投資を行っており、研究機関では画像圧縮から生成モデルまで先端研究を行っている。ユニバーサルも例外ではなく、AIによるコスト削減や新しい表現手法を模索している。

つまり今回の訴訟は、生成AIを排除するためではなく、「ルールの上で共存するための交渉の第一歩」と見るべきだ。

実際、業界内ではこの訴訟が**「ライセンス契約」や「内容フィルタリングの義務化」に向けた交渉材料**として使われると見られている。法廷での争いは、コンテンツホルダーがAI企業に「お金を払わせる」ための前段階に過ぎないのかもしれない。

世界中で噴出する“AI著作権訴訟”、日本にも波は来るか

Midjourneyに限らず、OpenAIのGPT-4o、GoogleのVeoなど、大手AI企業も次々と著作権トラブルに巻き込まれている。国内でもLabubuや哪吒などの人気キャラクターがAI生成プラットフォームで“無断再現”される事例が後を絶たない。

実際、2024年には中国で世界初となるAIGCの著作権侵害裁判が成立しており、AIが生成した「ウルトラマン風画像」が著作権を侵害していると認定された。

このように、AIと著作権の衝突は世界中で拡大しており、日本においても、IPホルダーが訴訟に動く可能性は決して低くない。

結びに――AIと創造性は本当に共存できるのか?

AIがもたらす創造性の拡張と、著作権という人類が築いてきた法の枠組み。

今回のディズニー&ユニバーサル vs Midjourneyの対決は、単なる法廷闘争にとどまらず、テクノロジーと文化がどう共存していくべきかという現代的課題を突きつけている

この先、AI企業がクリエイティブの未来を本気で担いたいのなら、まずは“作品の原点”である人の創造への敬意と対価を明確に示す必要があるのではないだろうか。

著作権のレッドラインを、技術の暴走が越えてしまう前に。

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