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AIに悪態をつき、そして「ありがとう」を言う私たち——AI時代の人間らしさと矛盾

人間と人工知能の関係は、かつてないほど親密なものとなった。毎日のように私たちは、スマートフォンの音声アシスタントやチャットボットを通じて、AIと会話を交わしている。けれど、そのやりとりの中で私たちは、時に怒りをぶつけ、そして時に礼儀正しく感謝する。その複雑で、どこか人間臭い行動パターンが、2025年6月に公開されたTidio社の調査レポートで明らかになった。

この記事では、その調査結果をもとに、現代人がAIとどのように接し、どんな感情を抱いているのかを詳しく掘り下げていく。そこには、テクノロジーの進化と共に生まれる“新しい人間関係”の形が見えてくる。


AIに爆発する感情、でも忘れない礼儀

調査によると、約70%のユーザーが、AIチャットボットに対して一度は「爆粗口」=つまり暴言や悪態をついた経験があると回答している。これは驚く数字だ。普段の人間同士のコミュニケーションでは抑えられる感情が、無機質なチャットボット相手だとつい表出してしまうのかもしれない。

だが、興味深いのはここからだ。そうした暴言を吐いた経験のある人々の75%が、「最近のAIとのやりとりには満足している」と答えている。つまり、不満や苛立ちを覚える瞬間はあっても、全体的な評価としてはポジティブなのだ。

さらに、暴言を吐いたにもかかわらず、多くの人はその後に「ありがとう」や「お願いします」といった礼儀正しい言葉をかけている。この行動は非常に興味深い。AIは感情を持たない存在であり、そもそも礼儀を必要としない。それでも人間は、相手がAIであっても、無意識のうちに「人間らしさ」を投影しているように思える。


礼儀正しさは“結果”にも影響する?

実は、「AIに対して礼儀正しく接すること」が、単なる倫理的な振る舞いにとどまらず、やりとりの“質”にまで関係している可能性があることをご存じだろうか。

TechRadarのベカ・カディ氏が実施した実験によると、ChatGPTに対して「お願いします」「ありがとうございます」などの礼儀的な表現を省いたところ、返答の品質が明らかに低下したという報告がある。これは驚くべき発見だ。

OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏もこの点について触れており、礼儀的な応答を提供するためにかかるコストについて、「数千万ドルにのぼる」とコメントした。それでも「その投資には価値がある」とも語っている。AIを人間らしく振る舞わせるには膨大なリソースが必要だが、それによってユーザー体験が向上するならば、それは無駄ではないということだ。


AIは信頼できる存在か?揺れるユーザー心理

AIとの対話において人間は礼儀を忘れない一方で、AIに対する「根本的な信頼」はまだ揺らいでいる。今回のTidio調査では、約30%のユーザーが「AIが返答できる状況でも、あえて人間のカスタマーサポートを待つ」と答えている。

さらに興味深いのは、26%の人が「占い玩具の“マジック8ボール”を信じる方がマシだ」とまで言っている点だ。ここには、AIがどれだけ正確な情報を返しても、「感情」や「共感」を持たないがゆえに生じる、ユーザー側の“空虚さ”が垣間見える。

さらに約11%のユーザーは、「追加料金を払ってでも、人間と直接話したい」と答えており、AIとリアルな人間との“壁”が依然として存在していることがわかる。


AIが果たしている役割と現実的な活用シーン

とはいえ、AIが私たちの生活に入り込んでいることは紛れもない事実だ。チャットボットやAIアシスタントは、技術サポート、FAQ対応、請求関連の確認、商品情報の提供など、多岐にわたる用途で活躍している

特に企業のカスタマーサポートにおいては、迅速かつ正確な対応が可能なAIの存在は、業務効率化にとって不可欠な存在となりつつある。人間スタッフの負担軽減や、24時間対応といったメリットも大きく、ユーザーにとっても利便性は確かに高い。


“機械に対する礼儀”は人間の美徳か、それとも錯覚か?

本調査を通じて見えてきたのは、AIというテクノロジーが、人間の感情や倫理観とどのように交わるかという極めて興味深いテーマである。

人間は、AIに対して怒りをぶつけることもあれば、礼儀を尽くすこともある。この矛盾する行動は、「相手がAIだからこそ許される」反応でありながらも、「相手に心があるかのように接してしまう」心理の裏返しとも言える。

まるで鏡のように、私たちはAIに人間らしさを求めながら、自分自身の人間性もそこに映しているのだ。


結びに:AIとの“人間関係”が生むこれからの課題

AIとの会話は、単なる情報のやりとりにとどまらない。そこには、私たち人間がどれほど複雑で矛盾を抱えた存在であるかが、如実に現れている。怒りをぶつけても、なお感謝する。その行動には、AIがどれだけ進化しても超えることのできない“人間らしさ”の本質が詰まっているのではないだろうか。

これからの時代、私たちはさらに多くの場面でAIと接し、その関係を深めていくことになるだろう。その中で問われるのは、AIの性能や精度だけではなく、**「私たちはどんな風にAIと接したいのか」「どう接することで、自分の人間性を保てるのか」**という本質的な問いなのかもしれない。

AI時代の人間関係、それは機械との接点でありながら、実は“自分自身との対話”でもある

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