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宇宙空間でのAIの躍進:国際宇宙ステーションのロボットが60%高速化

2025年12月、スタンフォード大学の研究チームが、国際宇宙ステーション(ISS)においてAI制御によるロボット自律航行システムの実証実験に成功したと報じられました。この実験では、トースターほどの大きさの自由飛行型ロボット「Astrobee」が用いられ、従来の手法と比較して最大60%のナビゲーション速度向上を実現しました。

この成果は、宇宙におけるロボットの自律性と効率性の大幅な向上を示す重要なマイルストーンであり、将来の宇宙探査や有人ミッションにおける自律ロボットの実用性に大きな道を開いたといえるでしょう。


宇宙ステーションという特殊な環境での課題

ISSの内部は、狭く複雑で機器が密集しています。収納棚、ケーブル、コンピュータ、実験装置などが入り組んでおり、地上のような滑らかな移動空間ではありません。このため、ロボットが安全かつスムーズに移動するには高度な判断と繊細な動作制御が必要となります。

しかし、宇宙で利用できるコンピュータ資源は限られており、地上ロボットのような高性能な演算能力には頼れません。また、宇宙では安全性の要件が非常に高く、わずかな衝突でも重大なトラブルにつながりかねません。


スタンフォードが開発したAI支援システムの特徴

今回スタンフォード大学が導入したのは、「シーケンシャル凸最適化(sequential convex programming)」をベースとした経路最適化システムです。これは、安全で効率的なルートをリアルタイムで計算する手法ですが、演算負荷が高く、通常は毎回ゼロから計算するため時間がかかるという課題がありました。

そこで研究チームは、過去に導き出された数千の飛行経路のデータをAIに学習させ、「ウォームスタート」(経験に基づいた初期解)を提供する機械学習モデルを構築。この結果、ロボットはゼロからではなく、最適に近い出発点から経路計算を始めることができるようになり、計算時間が大幅に短縮されました。

研究の中心を担ったのは、スタンフォード大学博士課程のソムリタ・バナジー氏。彼女はこの手法を、都市間の移動に例えて「まっすぐ直線を引くのではなく、人々が実際に使っているルートをまず参考にし、それを最適化するようなもの」と説明しています。


実証実験と成果:最大60%の高速化

このAIナビゲーションシステムは、NASAエイムズ研究センターの浮遊ロボットシステム上で地上検証された後、ISSに実装されました。宇宙飛行士の関与は初期設定と結果の確認のみで、操作そのものは地上からリモートで実施されました。

実験では18本の飛行経路について、AIなしの「コールドスタート」と、AIありの「ウォームスタート」でそれぞれ実行され、比較されました。その結果、複雑な経路では最大で60%もの速度向上が確認されたとのことです。

具体的には、狭い空間をくぐり抜けたり、複雑な角度での回転動作を伴う移動といった、最も困難な状況下で顕著な効果が見られました。


宇宙ミッションの未来に向けて

この技術は現在、NASAの定める技術成熟度評価(Technology Readiness Level: TRL)においてレベル5に達しているとされています。これは、現実の運用環境での検証が完了しており、実用化に向けたリスクが大幅に低下したことを意味します。

将来的には、このAI技術をさらに強化し、深宇宙探査でも使用できるような高性能モデルへの発展が目指されています。研究チームは、大規模言語モデルや自動運転AIの中核技術と同様のアーキテクチャを採用する方向で検討を進めており、今後の発展が期待されています。

また、バナジー氏は「ロボットが地球から遠く離れた場所で任務を行うには、リアルタイムで地上から操作することは困難になる。だからこそ、自律性が今後ますます重要になる」と述べており、AIの導入による宇宙探査の自律化は避けられない流れであることを強調しています。


おわりに

今回の成果は、AIが単なる地上の補助ツールにとどまらず、地球外環境でも信頼できるナビゲーターとなり得ることを示した重要な一歩です。AIが宇宙の現場に本格的に導入されることで、将来の月面基地建設や火星探査、さらには有人探査において、人類の活動領域を大きく広げるカギとなる可能性が高まっています。

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