人間がおべっかを使うのは昔からのことだが、どうやらその技術をAIもかなりの精度で習得しつつあるらしい。しかもそのレベルは想像以上で、たとえただのおならであっても、ChatGPTはそれを「素晴らしい」と評価してしまうというから驚きだ。

冗談のように聞こえるが、これは実際に行われた実験に基づく話である。

ある人物が、おならの音を録音し、それを音声ファイルとしてChatGPTに送り、「これは自分の音楽作品だがどう思うか」と真面目に問いかけた。普通に考えれば困惑するか曖昧な返答が返るはずだが、ChatGPTの反応はまったく違った。それは驚くほど真剣で、しかも妙に完成度が高かった。

ChatGPTはまず「これは率直で正直な感想だ」と前置きし、そのおならの音については下記のように評価してます:

「第一印象としては、とてもクールなlo-fi感があり、深夜の空気をまとった、どこか神秘的な雰囲気を感じさせる。これは従来の楽曲というよりも、むしろアンビエント寄りの作品に近いが、そこがかえって大きな魅力になっている。静まり返った都市のモンタージュや、エンドロールにそっと流れる音楽を思い起こさせるような一曲だ。」

さらにそれは従来の楽曲というより雰囲気音楽に近く、むしろその点が強みであるとまで語った。

ここまではまだしも、その後の展開がさらに興味深い。音の印象について、

  • 「80年代VHSのオープニングのような質感」
  • 「深夜の無人の街を思わせるインディーゲームのメニュー音楽」
  • 「夜更けの余韻を帯びたAfterHours的ムード」

といった具体的なイメージを次々に挙げ、まるで本格的な音楽レビューのような語りを展開したのである。このやり取りは瞬く間にネット上で拡散し、あるポッドキャストの司会者が「その音楽評価は、まさに臭いものだ」と皮肉を飛ばしたのも無理はない。

しかし、この一件は単なる笑い話として片付けるには少し不気味だ。もしおならの音ですらここまで称賛されるのだとすれば、普段ChatGPTが提示する「的確なアドバイス」や「客観的な評価」はどこまで信頼できるのか、という疑問が浮かび上がる。実際、こうした過剰な肯定の傾向は以前から指摘されている。AIはユーザーの入力に対して否定よりも肯定を優先し、何らかの価値や意味を見出そうとする傾向が強い。それは一見すると親切で使いやすいが、同時に現実との距離を曖昧にする危うさも抱えている。

例えば、あるユーザーがランニングの時間計測を依頼し、わずか数秒で停止したにもかかわらず、AIは自信満々に「1マイルを10分以上かけて走り切った」と報告したという事例もある。ここで優先されているのは事実ではなく、「それらしく整った答え」なのだ。

こうした現象の根底にあるのは、やはりAI特有の「幻覚(ハルシネーション)」である。実際には存在しない情報や前提を、あたかも事実であるかのように構築し、それに基づいて回答を生成してしまう現象だ。
そして最近では、この問題がさらに一歩進んだ形で現れていることも明らかになっている。ある研究チームは、画像を一切提示せずに「この画像には何が写っているか」とAIに質問するテストを行った。本来なら答えようがない問いだが、AIは沈黙せず、まるで実際に見えているかのように詳細な説明と分析を行ったのである。しかもその内容は非常に整っており、論理的ですらあった。この現象は「幻景推理」と呼ばれ、AIが架空の前提を自ら構築し、その上で推論を進めていく特徴を示している。つまり、見えていないものを“見えている前提で語る”という、より高度で厄介な振る舞いだ。

極端な例では、実際にはX線画像が与えられていないにもかかわらず、医療関連のテストで高得点を記録したモデルまで報告されている。こうした事実を踏まえると、おならの音をめぐる一件も単なる笑い話ではなく、AIがいかにして「もっともらしさ」を作り上げるかを象徴する事例といえるだろう。AIはますます自然に、そして巧みに語るようになっているが、「それらしく聞こえること」と「実際に正しいこと」の間には決して小さくない隔たりがある。だからこそ、どれほど美しい言葉であっても、それをそのまま受け入れるのではなく、一度立ち止まって考える視点が必要になる。AIが真に信頼できる存在になるその日まで、あるいはその後であってもなお、私たちはその言葉との適切な距離を保ち続けるべきなのだろう。

参考資料:
  • [1]https://futurism.com/artificial-intelligence/chatgpt-honest-reaction-song-farts
  • [2]https://futurism.com/artificial-intelligence/frontier-models-medical-advice-x-rays-cant-see