AIの進化が止まらない一方で、その裏側には見逃せない問題が潜んでいます。2025年7月、米カリフォルニア州の連邦裁判所にて、Meta(旧Facebook)がアダルト映画をBitTorrent経由でダウンロードし、自社AIの訓練に利用したとして、アダルト映画制作会社「Strike 3 Holdings」と「Counterlife Media」が訴訟を起こしました。対象となる作品は2,396本にも及び、損害賠償額は最大3億5,900万ドル(約550億円規模)に達する可能性があると報じられています。
Metaが直面する「AIと著作権」の新たな火種
近年、AI開発企業は次々と著作権関連の訴訟に巻き込まれています。小説や記事、画像に加え、今回の訴訟では動画コンテンツが焦点となりました。特にStrike 3 Holdingsは、「Vixen」「Tushy」「Blacked」「Deeper」といった人気ブランドを抱え、アメリカで最も訴訟を積極的に展開する企業として知られています。
彼らによれば、Metaは2018年以降、BitTorrentを介して数千本に及ぶアダルト映画を違法に取得し、自社の「Meta Movie Gen」や大規模言語モデル「LLaMA」などのAI訓練に利用**していたと主張。訴状にはこう記されています。
「Metaは我々の作品をパイレートソースからダウンロードし、AIモデルの学習に使用した」
もし事実であれば、AIによる「ハリウッド級のアダルト映像生成」が現実化し、既存の制作会社に深刻な脅威を与えることになります。
「Tit for Tat」アルゴリズムが暴いたシェアの実態
さらに注目すべきは、Metaが単にダウンロードしただけでなく、BitTorrentの「Tit for Tat」仕組みを利用して積極的にアップロードも行っていたとされる点です。
BitTorrentは共有量が多いほどダウンロード速度が向上する仕組みを持ちます。そのため、Metaはあえて著作物をシード(配布)し続けることで、他の海賊版コンテンツもより高速に取得できるようにしていたと告発されています。
「Metaはサブスクリプション購入やクライアント改造を避け、速度を優先するために故意に映画をシードした」
という一文からも、意図的かつ組織的な行為が疑われています。
浮上する「隠しデータセンター」と企業IPアドレス
訴訟の背景には、書籍著者たちがMetaを提訴した別の裁判が存在します。その中でMetaが海賊版ソースからの取得を認めたことで、Strike 3らは自社の追跡システム「VXN Scan」を使い、Metaに紐づくIPアドレスを徹底的に洗い出しました。
結果として、47のFacebook所有IPアドレスから違法ダウンロードの痕跡が発見され、さらに「オフインフラ(off-infra)」と呼ばれる隠しIPアドレスや、第三者サーバーと連動したダウンロードパターンまでもが特定されました。
中には、Meta社員がComcast回線を通じて映画を落とし、その後企業IPで共有していたとする具体的なケースまで指摘されています。
法廷での行方と業界への波紋
今回の訴訟でMetaが直面するのは、直接侵害と二次的侵害の二重の責任です。米国著作権法では、悪質な侵害1件につき最大15万ドルの賠償が認められるため、対象作品数から逆算すると3億5,900万ドル規模に膨れ上がる計算です。
もっとも、Strike 3は過去の訴訟で和解を選択した例も多く、Metaが巨額の和解金を支払って事態を収束させる可能性もあります。いずれにせよ、訴訟の進展次第では、AI企業がいかにデータを取得し、どこまでが「公正利用(Fair Use)」とされるのかという業界全体のルール形成に大きな影響を与えるでしょう。
結論:AI時代に突きつけられる「正義の代償」
今回のMetaへの提訴は、単なる企業間の争いではなく、AI開発と著作権の境界線をめぐる社会的課題を浮き彫りにしました。著作物が無断で学習データに使われれば、クリエイターの権利や産業そのものが脅かされます。一方で、AIの進化を支える「大量データ」の必要性も否定できません。
この二律背反の中で、Metaの動向は今後のAI業界全体の方向性を決める試金石となるでしょう。