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Metaのアダルト映画「AI学習目的の無断ダウンロード」訴訟:争点とその後
「3億5,900万ドル」は請求額ではなく、法定賠償の上限からの計算でした。2025年夏に報じられたMetaの訴訟を、訴状と裁判所の命令から読み直します。

2025年7月、アダルト映画の制作会社2社が、Metaを著作権侵害で米国の連邦地裁に訴えました。Metaが両社の映画をBitTorrentで無断にダウンロードし、さらにネットワーク上で配布していた、その目的は動画生成AIの学習データ集めだった、という主張です。日本では8月に「3億5,000万ドル規模の訴訟」として広く紹介されました。
この記事は、2025年8月26日に公開した記事を、2026年10月に訴状と裁判所の命令で確かめ直したものです。何が主張されたのか、Metaはどう反論したのか、そして裁判がいまどの段階にあるのかを、主張と事実を分けて整理します。
2025年7月の提訴:原告は何を主張したのか
訴えたのは、Vixen、Tushy、Blackedなどのブランドを持つStrike 3 Holdingsと、Deeperを持つCounterlife Media(Strike 3が過半を出資)です。訴状は2025年7月23日にカリフォルニア州北部地区連邦地裁に提出され、事件はのちにサンノゼのEumi K. Lee判事の担当になっています。
Strike 3は、BitTorrentでの個人の違法共有を相手に数多くの訴訟を起こしてきた会社で、TorrentFreakは「米国で最も活発な著作権訴訟の原告」と紹介しています。
訴状の主な主張は次のとおりです。いずれも原告側の言い分で、裁判所が事実と認めたものではありません。
- Metaは2018年以降、原告の映画を少なくとも2,396本、無断でダウンロードし配布した
- Facebookが保有する47のIPアドレスが使われ、ほかにMetaが「off-infra(社外インフラ)」と呼ぶ、所有者が分かりにくいIPアドレスも使われた
- 目的は、動画生成AI「Meta Movie Gen」や大規模言語モデル「LLaMA」など、動画を学習に使うAIのデータ集めだった
問われた責任は、自ら侵害した直接侵害に加え、他人の侵害から利益を得た代位侵害、侵害を助けた寄与侵害の3つです。
「3億5,900万ドル」は請求額ではない
旧記事は「損害賠償額は最大3億5,900万ドル(約550億円規模)に達する可能性がある」と書きました。この数字は訴状には出てきません。
米国の著作権法は、故意の侵害について作品1件あたり最大15万ドルの法定賠償を認めています。訴状が求めたのは作品ごとの法定賠償で、金額は示していません。3億5,900万ドルは、米国の著作権ニュースサイトTorrentFreakが2025年7月25日の記事で、2,396本に上限の15万ドルを掛けて示した理論上の最大値です。実際の賠償額は、裁判になれば陪審や裁判所が作品ごとに決めることになり、上限どおりになるとは限りません。
BitTorrentの「tit-for-tat」とは:原告の主張の核心
BitTorrentは、ファイルを小さな断片に分け、利用者どうしで送り合う仕組みです。ダウンロードしている間も、手元の断片はほかの利用者へ自動的にアップロード(配布)されます。多く送る相手に優先して送り返す「tit-for-tat(しっぺ返し)」という考え方で、たくさん配布する人ほど速くダウンロードできるように設計されています。
原告はここに目をつけました。Metaは原告の映画を配布し続けることで、ほかの大量のファイルを速く手に入れるための「通貨」にしていた、という主張です。単に見たり保存したりしただけでなく、配布までしていたなら、侵害の範囲は広がります。
ただし、TorrentFreakは2025年11月の記事で、tit-for-tatの効果は基本的に同じファイルをやり取りする利用者の集まりの中で働くものだと補足しています。アダルト映画を配布すれば別のファイルの取得まで速くなる、という筋書きがどこまで成り立つかは、今後の立証に委ねられます。
Metaの反論:「個人的な利用であってAI学習ではない」
Metaは2025年10月27日、訴えの却下を申し立てました。申立書の主な反論は次のとおりです。
- IPアドレスだけでは、誰がダウンロードしたかは特定できない
- ダウンロードは数十のIPアドレスで年に平均22件ほどにすぎず、AIの学習に必要な大量のデータ集めではなく「個人的な私的利用」を示している
- ダウンロードは2018年に始まったとされるが、原告自身がMetaの動画生成AIの研究開始を2022年としている
- 原告の主張は「推測とほのめかし」でつなぎ合わせたものだ
Metaの広報は2025年11月、Gizmodoに対して「これらの主張は事実無根だ。私たちはこの種のコンテンツを求めておらず、こうした素材で学習しないよう意図的な手段をとっている」とコメントしています。
その後の動き(2026年10月時点)
2026年6月11日、Lee判事はMetaの却下申し立てを退けました。
命令は、映画がトレントでダウンロードされ配布されたことを原告が十分に主張している以上、「特定のAIモデルの学習に使われたかどうかにかかわらず」著作権侵害の要件を満たしうると述べています。特定のキーワードに合うファイルがまとまってダウンロードされていた点については、個人がたまたま選んだものだとするのは「信じがたい」とし、原告の主張からは、Metaがアルゴリズムを使って業務目的でダウンロードしたという合理的な推認が成り立つ、と述べました。
ここで大事なのは、これが訴えの入り口の判断だという点です。この段階の裁判所は、原告の主張を事実と仮定したうえで、裁判を続ける理由があるかを見ます。Metaが侵害したと認定したわけではありません。
TorrentFreakの2026年7月の報道によると、原告はその後、対象を2,973本に広げた修正訴状を出しました。同サイトは、法定賠償の上限で計算すると約4億4,600万ドルになるとしています(修正訴状の本文は編集部では確認できていません)。
Metaは2026年7月21日の答弁書で、原告の作品をダウンロードやアップロードしたことを否認しました。一方で、一部のLLaMAモデルの開発と学習のために、公開されているテキストのデータセットの一部を直接のダウンロードとトレントで入手したことは認め、そこに原告の作品は含まれていなかったとしています。
2026年7月27日には、原告が別の訴訟(作家らがMetaを訴えたKadrey事件)の証拠一式を、その事件でMetaを代理する法律事務所に求めた召喚状を、裁判所が取り消しました。同じ資料はMeta自身が持っているので、まずMetaに開示を求めるべきだという理由で、のちに改めて求める余地は残しています。2026年10月時点で事件は証拠開示の段階にあり、和解や判決の報道は見当たりません。答弁書の表紙には、審理期日として2028年2月7日が記されています。
AIと著作権の訴訟のなかでの位置づけ
AIの学習データをめぐる訴訟は、ほかにも続いています。作家らがMetaを訴えたKadrey事件では、2025年6月25日に担当判事が、LLaMAの学習はこの原告たちとの関係ではフェアユース(公正な利用)にあたると判断しました。ただし判事は、原告の主張の立て方が誤っていただけだと述べ、トレントによる配布の問題は「引き続き争点として残る」としています。2026年3月には、トレントで本をダウンロードする際に同時にアップロードしたとする寄与侵害の請求を追加することが認められました。
一方、作家らがAnthropicを訴えたBartz事件では、海賊版サイトから本を入手した点をめぐって15億ドルの和解が成立し、2026年7月20日に裁判所が最終承認しています。
こうした流れのなかでStrike 3の訴訟が注目されるのは、AIの学習がフェアユースかどうかより手前の、「データをどう手に入れたか」が問われているからです。6月の命令も、トレントで取得・配布したこと自体を侵害の根拠として扱いました。編集部としては、AIの学習データの是非を考えるうえで、この「入手の経路」がこれからの論点の中心になると見ています。
AIと映像の権利をめぐる動きは、ワーナーがMidjourneyを訴えた件やディズニーがCharacter.AIに停止を求めた件でも紹介しています。
Sources
- Strike 3 Holdings, LLC v. Meta Platforms, Inc.「Complaint – Demand for Jury Trial」(ECF 1、2025-07-23提出、CourtListener RECAPの写し) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Meta Platforms「Notice of Motion and Motion to Dismiss Plaintiffs' Complaint」(ECF 34、2025-10-27提出、CourtListener RECAPの写し) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- 米国連邦地裁 カリフォルニア州北部地区「Order Denying Motion to Dismiss」(ECF 61、Eumi K. Lee判事、2026-06-11、GovInfo) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- 米国連邦地裁 カリフォルニア州北部地区「Order re Protective Order for Non-Party Subpoena」(ECF 74、Susan van Keulen治安判事、2026-07-27、GovInfo) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- TorrentFreak「Copyright Lawsuit Accuses Meta of Pirating Adult Films for AI Training」(Ernesto Van der Sar、2025-07-25) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- TorrentFreak「Tit-For-Tat: Porn Producers Counter Meta's 'Personal Use' Piracy Defense」(Ernesto Van der Sar、2025-11-15) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Gizmodo「Meta Says Porn Stash Was for Personal Use, Not Training AI Models」(AJ Dellinger、2025-11-03) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- TorrentFreak「Meta Must Face Adult Film Piracy Lawsuit as Court Denies Dismissal」(Ernesto Van der Sar、2026-06-15) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Meta Platforms「Defendant Meta Platforms, Inc.'s Answer to Plaintiffs' Amended Complaint」(ECF 73、2026-07-21提出、写し) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- TorrentFreak「Meta Confirms 'Data Engineer' is Behind Key IP Address in Adult Film Piracy Lawsuit」(Ernesto Van der Sar、2026-07-26) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- FindLaw「Kadrey v. Meta Platforms Inc (2025)」(N.D. Cal. No. 23-cv-03417-VC、2025-06-25) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Kadrey v. Meta「Order Granting Motion for Leave to File Fourth Amended Complaint」(ECF 700、2026-03-25、CourtListener RECAPの写し) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Authors Guild「Court Grants Final Approval of $1.5 Billion Anthropic Copyright Settlement」(2026-07-21) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- 米国著作権法 17 U.S.C. §504(法定賠償) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
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