「宇宙に太陽光で駆動するAIデータセンターを建設するのは、迷う余地のない“当然の選択”だ。地上の5倍の発電効率があり、冷却にも悩まされない。宇宙こそがAI計算能力を最も安価に展開できる場所だ。2〜3年以内に実現するだろう。」
1月下旬のダボス会議。イーロン・マスクは、ブラックロックCEOラリー・フィンクとの対談で、再びこの大胆な構想を語った。ここ3か月で少なくとも3度目だ。11月にはX上で、12月にはSpaceX内部講演で、そして今回、世界の金融・産業の中枢が集う舞台である。
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だが今回は、単なる発言では終わらなかった。対談から一週間後、SpaceXはFCCに対し、最大100万基の衛星を展開し、地球周回軌道上にデータセンターネットワークを構築する計画を正式に申請した。さらにここ数日、中国国内の太陽光発電企業と接触し、宇宙分野での協業可能性を探っているとの情報も流れている。
大胆な宣言と、即座の実行。いかにもマスクらしい“突進型”の動きだ。その勢いは瞬く間に「商業宇宙」ブームを再燃させ、同時にここ数年停滞していた太陽光発電業界を再び産業界と資本市場の中心へ押し上げた。
実は、宇宙太陽光発電そのものは新しい概念ではない。1960年代から人工衛星には太陽電池が搭載されてきた。ただし長らくその前提は「コストを度外視した高信頼性」だった。極端な放射線や温度差に耐えるため、柔軟型太陽電池パネルの主流は高価なガリウムヒ素。価格は1ワットあたり約1万6000円〜2万円。地上用の結晶シリコンの実に千倍である。
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しかし、時代は変わった。
「以前は宇宙機は“小型家電”のような存在だった。消費電力が小さいから高くても問題なかった。でもマスクは宇宙を“産業”に変えた。軌道上に計算拠点を置くとなれば、電力需要は指数関数的に増える。」
烁威光電の創業者・葉冯俊はそう語る。もはや宇宙は象徴的存在ではない。巨大な産業基盤へと変貌しつつある。そして産業化は必ず、コストの壁に突き当たる。
さらに無視できないのが資源制約だ。ガリウムヒ素はレアメタル「ゲルマニウム」に強く依存する。仮にマスク構想通り1ギガワット規模の宇宙発電を行うなら、約4000トンのゲルマニウムが必要になる。これは現在の世界年間生産量の30倍、確認埋蔵量(約8600トン)のほぼ半分に相当する。希少資源に依存する技術では、宇宙産業化の野心を支えきれない。
そのための暫定策がP型結晶シリコンである。地上では旧式となった技術だが、構造改良により軽量化が進んだ。しかし発電効率の低さと寿命の短さという根本的課題は残る。あくまで過渡的な選択肢にすぎない。
業界が注目する本命は、ペロブスカイト太陽電池である。
ペロブスカイトとは特定の鉱石名ではない。ABX₃という結晶構造を持つ材料群の総称だ。19世紀に発見された「チタン酸カルシウム」に由来し、分子配列が幾何学的に安定した特性を持つ。使用元素は比較的安価で、理論変換効率は単層33%、積層構造で45%以上と、結晶シリコンの理論限界29.4%を大きく超える。
だが2022年、量産段階で壁に直面した。小面積実験では26%を超えた効率が、大面積では18%前後に低下。さらに水や酸素に弱いという致命的欠点。地上用途では耐久性が課題となり、太陽光発電価格は1ワット20円未満へと暴落し、資本の熱は急速に冷え込んだ。
しかし宇宙では状況が逆転する。
真空環境では水も酸素も存在しない。最大の弱点が消える。そしてペロブスカイトは高比出力・軽量・天然の耐放射線性を持つ。商業衛星の寿命は3〜5年。ペロブスカイトの劣化周期はちょうどそれをカバーする。
弱点が消え、長所が最大化される。まさに“カーブでの追い抜き”の瞬間だ。
宇宙用途は価格許容度も高い。地上ではわずかな価格差を争うが、宇宙では1平方メートルあたり約400万円〜600万円のガリウムヒ素が基準だ。半額、あるいは3分の1であれば完全な代替が可能になる。
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SpaceXのドラゴン宇宙船や将来の大型宇宙ステーション、さらにはAIデータセンター構想。これらは既存衛星の千倍、万倍の電力を必要とする。宇宙太陽光発電市場の想像力は、これまでとは桁違いだ。
北京市郊外の旧工業団地。烁威光電は2023年創業。当初から宇宙用途を志向した数少ない企業の一つである。2022年の資本バブル期を逃したことで、逆に過大評価の重荷を背負わず、地道な研究に集中できた。50件以上の特許で、真空・放射線・極端な温度差下での安定性問題を克服してきた。
「追い風は来ると思っていた。でも、これほど急速だとは。」
マスクの発言後、投資家やパートナーの訪問が相次いだ。加速か、慎重か。葉は後者を選んだ。2026年には複数回の軌道上実証実験を計画し、まずは工程化と信頼性検証を優先する。宇宙で証明できれば、地上展開は“科学課題”から“工業課題”へと移行する。
これは単なる素材の話ではない。エネルギー構造の再編であり、宇宙産業の再定義であり、AI計算能力競争の背後にある“電力革命”でもある。
マスクが吹かせた宇宙の風は、太陽光発電業界を再び照らした。そしてその光の中で、かつて地上で行き詰まったペロブスカイトが、新たな軌道を描き始めている。
宇宙を経由したこの“次元を超えた追い越し”が本当に実現するのか。答えはまだ真空の彼方にある。しかし確かなのは、産業史において、環境が変われば優劣も反転するという事実だ。
宇宙という極限環境は、ある技術の欠点を消し、別の技術を主役へと押し上げる。
そして今、その主役候補の名は——ペロブスカイト。



