ある朝、世界はひっそりとした喪失を目撃した。ウェブブラウザに表示されたのは「Page not found(ページが見つかりません)」。それはただのエラーメッセージではなかった。あるスタートアップの運命の終わり、そのままの姿だった。**人型ロボット業界で2026年最初に倒れた企業――Cartwheel Robotics(カートホイール・ロボティクス)**の公式サイトは、ある日突然消え去ったのである。

この小さなアメリカ企業の消失は、単なるニュースに留まらない。むしろこの瞬間こそ、巨大な産業が抱える“本質的な課題”を我々に突きつける衝撃的な象徴だった。資金調達の失敗――これが、夢を現実に変える前に、無慈悲に命を奪ったのである。

Cartwheel Roboticsは2022年に創業された。当初から注目を集めた理由は、その創業者であるスコット・ラバリー(Scott LaValley)の経歴にある。彼はかつて、人型ロボットの代名詞ともいえるBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)で10年間、最先端ロボット「Atlas(アトラス)」の開発に携わった人物だ。そしてその後は夢のテーマパーク企業Disney(ディズニー)でチームを率い、あの人気キャラクターを模したロボット「Baby Groot(ベビー・グルート)」を創り上げた。要するに、技術と感性、両方を知るロボット人材の業界トップサイドだった。

だが、その成功の裏にあるのは、子どもたちの率直な一言だったという。アトラスのような先端ロボットを見た子どもたちは「怖い」と言い、ベビー・グルートを見たときには「抱きしめたい」と笑顔を見せた。この対照的な反応こそ、ラバリーが目指したものの原点であり、“人々の生活に寄り添い、感情を共有できる家庭用ロボット”というビジョンの出発点でもあった。

こうした心からの思いを胸に、彼は当時の有力AI企業Figure AIからのオファーを断り、Cartwheel Roboticsの創業へと進んだ。創業初年、彼の掲げた目標は明確だった──「技術だけではなく、感情とコミュニケーションを伴ったロボットを、いつか家庭の一員にする」こと。

Cartwheelが開発した製品は、二つのプロトタイプに結晶されていた。一つは「Yogi(ヨギ)」と名付けられた、幼児のような体型をした人型ロボットだ。丸みを帯びたフォルムと大きな頭、そして柔らかなボディラインには意図がある。それは“見る者に恐怖ではなく親近感を抱かせる”デザインそのものだった。まるでそこに“自分の分身”がいるかのような安心感――それがYogiの最大の狙いだった。

もう一つのプロトタイプは「Speedy(スピーディ)」。これはより商業・カスタマイズ性を重視したプラットフォームであり、ユーザーの希望に合わせた役割を与えられる設計を持つ。Baby Grootにインスパイアされながらも、特定の用途やブランドに限定されない柔軟性を持つことが期待された。

しかし、技術とヴィジョンが揃っていただけでは生き残れないのが、人型ロボットという“究極のハードウェア市場”の現実だ。ラバリー自身も以前、「サービスモデル(ロボットをレンタルするようなビジネス)が増えているが、それを成立させるにはロボット自体が経済性に優れていなければならない」と語っていた。価格と価値のバランス、顧客体験と利益の構造──これらは、どれ一つとして簡単に解ける方程式ではなかったのだ。

そしてその“予言”は、わずか1年で現実となった。Cartwheelが倒れた理由は、実にシンプルでありながら残酷だった。資金が枯渇したのだ。ラバリーの告別文にある一節は、痛烈に心を打つ――「ハードウェアスタートアップにとって、資金は酸素のようなものだ」。

Cartwheelのチームは僅か7人。しかし彼らは、300万ドル(約4億円)という比較的少額の資金でYogiの開発を完成させ、専用ラボまで立ち上げた。だがこの金額は、人型ロボットという長い開発サイクルと莫大な生産コストを要する市場ではほんの始まりの一滴にすぎなかった。如実に言えば、300万ドルは量産・販売の入口にも立てないほど小さな資金だったのである。

彼らは世界の名立たる投資家やトップベンチャーと交渉を続けた。数々の会話と提案、技術デモンストレーションを繰り返したにもかかわらず、どこからも十分な資金は集まらなかった。それどころか、より大きな市場的可能性に投資するための“橋渡し”をしてくれるパートナーさえ見つけられなかったのである。

技術的な成果も、水泡に帰したわけではない。Cartwheelが発表した「運動言語モデル(MLM)」は、言語指示を理解し、身体の動きによって感情や意図を表現するという極めて高度なAIモデルだった。このモデルは、単にコマンドを実行するだけではなく、人間のような“意味のある反応”を生み出す未来を示唆していた。しかし、この技術の価値は結局、資金という現実の壁によって実用化への扉を開けられなかった

Cartwheelに続き、同様の悲劇を迎えた企業は他にもある。2025年11月には、米国発の人型ロボット企業「K-Scale Labs」が事業停止を発表した。彼らは既に投資家から400万ドルを集めていたものの、アメリカ国内の製造・物流・関税コストによって競争力を失い、数十万ドルの現金しか残せなかった。その結果、顧客への出荷すら果たせず、すべての注文を返金するしかなくなってしまった。

さらにさかのぼれば、AI搭載伴侶ロボット企業「Embodied」も、大手投資家の支援を受けながらも資金調達に失敗し、ついには破産に追い込まれた。英Intel CapitalやToyota AI Ventures、Amazon Alexa Fundなど名だたる投資家が名を連ねながら、この企業も最後の資金調達に成功できなかったのである。

こうして見ると、アメリカのロボット業界は技術力と夢に満ちていながらも、資金力という現実に阻まれ次々と倒れていった。だがこの“裏側”には、別の熱狂的なストーリーが同時進行している。資金が尽き、息絶えた企業がある一方で、中国ではまったく逆の現象が起きているのだ。

2026年の年明け、中国のロボット・具身知能(Embodied Intelligence)企業は、まるで戦国時代のような資金調達ラッシュを迎えている。例えば「因時ロボット」はC1・C2の二つのラウンドで数億元を調達し、国内大手投資ファンドや国有資本の支援を獲得した。また「千尋智能」は連続した大型ラウンドで約20億元という巨額を調達し、企業評価額が100億元を突破したという。

ほかにも「智平方(AI² Robotics)」や「星海図」などが10億元規模の資金調達を成功させ、百億評価の独角獣企業へと成長している。これらの成功例は決して一握りの現象ではなく、2026年初頭の数か月だけで多数の企業が巨額投資を受け、勢いづいている。

こうした熱狂の渦中で、投資家の間にはある共通認識が芽生えつつある。「2026年は、具身知能産業の商業化元年になるだろう」という予測だ。アメリカのように資金ショックで倒れるだけのビジョン企業ではなく、受注と量産を勝ち取る企業こそが次の勝者になるという見立てだ。

実際、注文を基盤にした事業モデルは単なる理想論ではない。顧客と直接結びつき、市場で実際に価値を交換することは、外部資金頼みの“サバイバルゲーム”から抜け出す最も確実な道であると理解され始めているのだ。資金調達競争は確かに目を引くが、真の戦いはこれから“人工知能ロボットの実需市場”で始まる

終わった企業もいれば、勢いを増す企業もある。これは静かな死と激しい誕生が同時に交錯する、2026年のロボット産業の物語だ。人型ロボットという夢の産業は決して消え去ったわけではない。しかし、それを現実のビジネスへと昇華するには――資金だけでなく、顧客の信頼と注文という“確かな支持”が必要なのだ。