Featureシリーズ: After the Hype
1,330万ドル集めたクーラーはなぜ届かなかったのか:Coolest Coolerの記録
約束、数字、規制当局の文書、そして終わり方。「詐欺」という言葉を使わずに記録を読むと、見えてくるのは安すぎた値札です。

60,439人のうち、38,979人。2017年6月、オレゴン州司法省とクーラーボックスの会社が交わした文書の1ページ目には、そう書かれています。Kickstarterで当時の史上最高額を集めた製品が、その時点で約束を果たせていた支援者の数です。
Coolest Coolerは、クラファンの「届かなかった」話の代表例としていまも名前が挙がります。けれど、よく語られる物語と記録に残る事実は、少しずつずれています。
証拠1 約束:200ドルの「21世紀のクーラーボックス」
和解書は、この製品を「60クォートの車輪つきクーラーで、ミキサー、USB充電器、防水スピーカーを内蔵する」と説明しています。185ドルに送料15ドルを加えて支援した人は、試作品が製品になれば1台を受け取れる、というリターンでした。
2014年夏のキャンペーンは5万ドルの目標を36時間で達成し、最終的に62,642人から1,330万ドルを集めます(Oregon Business)。2012年にPebbleが集めた約1,027万ドルを上回る額でした。当初の配送予定は2015年2月です(PCWorld)。
証拠2 数字が合わなくなった
2015年の終わりには、モーターを作る工場のストライキがコストを押し上げていました(PCWorld)。そのころ会社は、支援者を待たせたまま、Amazonなどの小売でクーラーを売り始めます。
2016年4月、創業者のライアン・グレッパーは支援者への更新でこう認めました。「残念ながら、支援額の設定が、Coolest Coolerの最終的な品質をまかなえるほど高くなかった」「最終的に、開発と製造に想定以上の費用がかかった」(Vice、BGRの引用による)。
同じ更新で、97ドルを追加で払えば早く受け取れるという選択肢を示し、これを「残りの費用」の負担だと説明しています。Viceによると、この時点で届いていたのは約2万台、待っている人は約3万6千人。小売で2〜4台売るごとに、支援者向けの1台を出荷できるという説明でした。
つまり、支援者への配送は、まだ起きていない将来の小売販売にかかっていたことになります。支援額が原価を下回った瞬間から、資金を多く集めたことは、それだけ大きな負債を抱えたことと同じ意味になります。
証拠3 規制当局の文書は何と書いているか
2016年10月、オレゴン州司法省は苦情を受けて調査を始めました(KATU)。2017年6月、会社と創業者個人は州司法省と「Assurance of Voluntary Compliance(自主的な法令順守の誓約)」を交わします。中身は次のとおりです。
- キャンペーン後の更新で示した「出荷・配送の日付についての具体的な表示」に関する、「争いのある事案」の和解である
- 「いかなる目的でも違反の自認とはみなされない」。会社側は「違法な、あるいは不適切な事業慣行」を明確に否定している
- 2017年4月15日までに州司法省へ苦情を出した392人と、オレゴン州在住の481人には、120日以内に発送する
- オレゴン州外に住み、苦情を出していない21,021人(グループC)には、販売の純利益の10%以上を「支援者基金」に積み、3年かけて原価で届ける
- 2020年6月6日にまだ届いていない人には、1台につき20ドルを支払う。この義務は破産でも免除されない
- 支援者に届け終えるまで、リターン型のクラファンは使えない
細かく読むと、数字が合いません。履行済みの38,979人とグループCの21,021人、120日の対象873人を足すと、60,439人を超えます。対象の定義に「クーラーや付属品の一部をまだ受け取っていない人」が含まれるためと読めますが、文書に内訳の説明はありません。キャンペーン終了時の62,642人と「確認済みの支援者」60,439人の差も、説明されていません。
証拠4 終わり方
2019年12月、会社は支援者にメールで事業の終了を告げました。「重い気持ちでお伝えしなければなりません。会社を閉じることになりました。まだCoolestを受け取っていない皆さんにこれをお伝えするのは、私たちにとって耐えがたいことです」(GeekWireの記事より。写しは米国特許商標庁の公開記録に収録)。理由には、中国製品への関税を挙げたと報じられています(The Register、Engadget)。
2020年5月の商標審判の申立書は、公式サイトの全カテゴリーが「商品はありません」と表示されていると主張しています。期限の2020年6月6日に20ドルが支払われたのかどうかは、公開されている資料からはわかりません。
安すぎる約束の、請求書は誰に届くか
値段の読み方として残るのは、まず二つの問いです。支援価格は、将来の小売価格や原価からどれだけ離れているか。グレッパーが「残りの費用」と呼んだ97ドルは、約束がどれだけ安かったかの目安になります。そして、遅れたときに配送の資金はどこから来るのか。将来の販売に頼る計画は、売れなければ届きません。
更新に書かれる日付も、約束として読む必要があります。州司法省が問題にしたのは、まさにその日付の表示でした。住む場所も結果を分けます。この和解で先に救われたのはオレゴン州の住民と苦情を出した人で、海外の支援者を含むオレゴン州外の多くはグループCに入ったと読めます。
Kickstarterは公式ヘルプで、支援をつくり手との契約と位置づけ、リターンの受け取りは保証されないと説明しています(支援の仕組みの解説)。2014年10月18日以前に始まったプロジェクトに適用されるのは2012年10月版の規約で、Coolest Coolerもその時代の一件でした。
200ドルで約束されたクーラーの代わりに、グループCに残った約束は1台20ドル。安すぎる値札の差額は、最後には支援者に回ってきます。遅延や返金の扱いは、届かないときの動き方で整理しています。
Sources
- オレゴン州司法省とCoolest LLC・Ryan Grepperの「Assurance of Voluntary Compliance」(2017年6月。USPTO商標審判部 Cancellation No. 92070792、2020-05-12提出書面のAnnex B) (2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
- Oregon Business「The Coolest Cooler campaign closes」2014-09-03 (2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
- Guinness World Records「Most money pledged for a Kickstarter design project」 (2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
- PCWorld「Record-breaking Kickstarter darling Coolest Cooler asks backers for more money」2016-04-14 (2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
- TIME「Coolest Cooler Kickstarter delay」2016-03-02 (2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
- Vice(Motherboard)「A Very Uncool Cooler」2016-04-13 (2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
- BGR「The second-biggest Kickstarter project ever is also a spectacular fail」2016-04-15 (2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
- KATU「Portland's 'Coolest Cooler' Kickstarter settles with Department of Justice」2017-06-27 (2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
- The Register「Coolest Cooler fail」2019-12-11 (2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
- Engadget「Thousands of 'Coolest' Kickstarter backers will only receive $20」2019-12-10 (2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
- Kickstarter Help Center「A project I backed isn't able to fulfill. What does this mean for the backers?」 (2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
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