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Featureシリーズ: Deep Dive

衛星とスマホの直接通信は、なぜ電話をかけられないのか:4社の仕組みと限界

圏外の山で「衛星」の表示が出ても、119番には電話できません。数百km上の基地局と、いつものスマホの出力。その差を何が埋め、何がまだ埋まらないのか。

Modern-G 編集部約7分で読めます

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衛星とスマホの直接通信は、なぜ電話をかけられないのか:4社の仕組みと限界

地平線の上に浮かぶ小さな衛星から、細い一本の線だけが地上のスマートフォンの輪郭へ降りてくる、抽象的なイラスト
イラスト:Modern-G

登山道の途中で、スマホの画面からアンテナの表示が消え、代わりに「衛星」の二文字が出る。auとドコモは、衛星につながるとこうした表示が出ると案内しています。ソフトバンクを含む3社が、SpaceXのStarlink衛星とスマホが直接つながるサービスを始めたからです。

それでも、この画面から119番に電話はかけられません。auは自社のよくある質問で、最も大きな制限は「音声通話(110・119などの緊急通報を含む)が使えない」ことだと書いています。空にはつながるのに、なぜ声は届かないのか。理由の大半は、電波の物理と周波数の幅で説明できます。

「衛星」と出たときに、できること

各社の公式ページ(2026年10月29日確認)から、自社回線で使う場合の条件を並べました。

サービス開始自社回線の料金できることできないこと
au Starlink Direct2025年4月当面追加料金なしテキスト(写真などの添付も)、対応アプリ(データは一部機種)、位置情報の共有、緊急速報メール音声通話(110・119を含む)、ブラウザ、動画
docomo Starlink Direct2026年4月27日申し込み不要・当面無料テキスト、対応アプリ、位置情報の共有、エリアメール音声通話
SoftBank Starlink Direct2026年4月10日対象プランは追加料金なしテキスト、対象アプリ、一部の緊急速報メール音声通話、緊急通報
楽天モバイル(AST SpaceMobile)2026年第4四半期を目指す未発表音声やビデオ通話を含む通信を計画開始日は未発表

3社の条件はよく似ています。使えるのは、その会社の4G・5Gの電波が届かず、Wi-Fiにもつながっていない場所だけ。空が見える屋外であることも前提で、ソフトバンクは建物の密集地や車内、木の茂った場所では使えないか不安定になることがあると書いています。

違いが出るのは、衛星に何をのせるかです。ソフトバンクはLINE、PayPay、Yahoo! JAPANといったグループ各社のアプリを対象にしました。ドコモはd払いを衛星通信に対応させ、auは登山アプリのYAMAPやウェザーニュースを挙げています。同じ衛星網を使いながら、各社はそれぞれの経済圏のアプリを空へ上げている、と読めます。他社の回線にも門戸を開いたのはauで、povoなど他社回線の人も月1,650円の専用プランで使えます(申し込み月から3か月は0円)。

数百km上の基地局と、いつものスマホ

土台になる数字は、総務省の情報通信審議会が2024年にまとめた資料にあります。2GHz帯を使う衛星ダイレクト通信の技術的条件で、KDDIが同年12月に免許を受けた方式です。衛星の高度は340kmと525km。スマホ側の送信出力は23dBm(約0.2W)で、資料は「携帯電話端末と同等」と書いています。専用の端末がいらないということは、スマホの非力さもそのまま、ということです。

衛星とスマホの直接通信で足りないものを3段で示した図。1、距離:地上の基地局まで5km、衛星まで500kmと仮定すると距離は100倍、電波の強さはおよそ1万分の1。2、出力と耳:スマホの送信は地上で使うときと同じ23dBm。衛星側のアンテナ利得は最大38dBi、倍率で約6,300倍。3、幅:1本のビームは直径約50km、使える周波数の幅は最大5MHz。
衛星直接通信の三つの壁(総務省 情報通信審議会の2GHz帯の技術的条件の資料をもとに作図。距離の比較は仮定の数字)Modern-G作図

電波は、何もない空間では距離の2乗で弱まります。仮に地上の基地局まで5km、衛星まで500kmとすると、距離は100倍、届く電波の強さはおよそ1万分の1です。これを埋めるのが衛星側のアンテナで、同じ資料によれば利得は最大38dBi、倍率にすると約6,300倍になります。足りない分を、空の上の大きな耳と口で補う構図です。

もう一つの壁が、周波数の幅です。衛星とスマホの間で使えるのは最大5MHz幅で、1本のビームが照らす範囲は直径約50km。約2,000平方kmの範囲を、ひとつのビームがこの幅で受け持つことになります。山や海の利用者は多くありません。それでも、まず小さくて待たせても困らないデータから始めるのは理にかなっています。

Appleも自社の衛星機能について、衛星は「動きが速く、帯域幅も狭く」、地球から数百キロメートル以上離れていると説明しています。理想的な条件でも、メッセージ1通の送信に30秒以上かかることがあるそうです。Appleが使うのはGlobalstarの衛星で、Starlinkとは別の網ですが、置かれた条件は似ています。

声が後回しになるわけ

文字は、届くまでに数秒待たされても会話が壊れません。途切れたら送り直せば済みます。声はそうはいきません。双方向に、遅れなく、途切れずに流れ続ける必要があります。ソフトバンクは、衛星通信の特性上、接続先の切り替え時に通信が一時的に中断し、環境によってはそれが一定時間続くことがある、と注意書きに記しています。動き続ける衛星を乗り継ぐ仕組みでは、この切れ目を通話の相手に感じさせない工夫が要ります。

ここから言えるのは、3社が音声を外しているのは、いまの衛星と周波数の幅では通話の品質を約束できないから、ということでしょう。各社の次の計画も、まさにこの部分に向いています。

次の衛星と、楽天の別の道

KDDIは2026年9月、次世代衛星「Starlink Mobile V2」の契約を8月に結んだと発表し、高速データ通信と音声通話(VoLTE)を2027年内に提供することを目指すとしました。V2はアンテナが大きくなり、衛星1基あたりのスループットは約20倍、データ密度は約100倍になるとKDDIは説明しています。ドコモもV2の契約に合意し、音声通話やブラウジングを2028年度中に提供する予定です。どちらも会社の発表で、実際の速度や料金はまだ示されていません。

楽天モバイルは、米AST SpaceMobileの衛星で、テキストだけでなく音声やビデオ通話も市販のスマホで使えるサービスを目指しています。2025年4月に福島と東京の間で衛星経由のビデオ通話に成功したと発表し、国内の提供開始は2026年第4四半期が目標です。ただし使う周波数帯や料金は「現時点で未定」としていました。10月30日時点で、開始日と料金の発表は見当たりません。

衛星直接通信の年表。2025年4月 au Starlink Direct開始(当面追加料金なし)。2026年4月10日 ソフトバンク開始(対象プランは追加料金なし)。2026年4月27日 ドコモ開始(申し込み不要・当面無料)。2026年第4四半期 楽天モバイルが開始を目標(音声・ビデオ通話を計画)。2027年内 KDDIが次世代衛星Starlink Mobile V2で高速データ通信と音声通話(VoLTE)の提供を目指す。2028年度中 ドコモがV2で音声通話やブラウジングを提供予定。
今は文字中心。音声は次世代衛星以降の計画Modern-G作図

手がかりは総務省の資料にあります。2026年6月、情報通信審議会は700MHz帯を使う衛星ダイレクト通信の技術的条件を一部答申しました。衛星からスマホへの周波数は770〜773MHzで、2023年に総務省が楽天モバイルの開設計画を認定した帯域と重なります。資料に事業者の名前はなく、幅は3MHzです。最大5MHzの方式より狭い幅で、どこまでの通信が実現するのか。答えが出るのはサービスが始まってからです。

iPhoneの「緊急SOS」は別の仕組み

混同しやすいのが、iPhone 14以降に備わるAppleの「衛星経由の緊急SOS」です。キャリアのサービスとは別にAppleが提供する機能で、日本ではiOS 17.6以降で使えます。電話がつながらないとき、110、118、119にテキストで通報でき、アクティベーションから2年間は無料です。

キャリアの衛星直接通信が緊急通報に対応していない一方、通報そのものを目的にした仕組みはこちらにあります。auは、SOSセンターを経由して緊急通報受理機関へ伝える「au Starlink Direct SOS」も別に用意しています。

圏外に出る前に

衛星につながっている間は、アプリの更新や初回ログインができません。auとドコモはどちらも、対応アプリの入手や更新を、地上の電波かWi-Fiのある場所で済ませておくよう案内しています。Appleは、ポケットやリュックに入れたままでは衛星に接続できないとしています。

auとドコモは一部の地域ではつながらない場合があると明記し、ソフトバンクも衛星との見通しが確保できない場所では使えないことがあるとしています。衛星直接通信が変えたのは、圏外を「何も届かない場所」から「文字なら届くかもしれない場所」にしたことです。山や海へ出る日の連絡の段取りは、これまでどおり、つながらない前提で組んでおくのが安全です。3社のサービスは海外の一部の国でも使えるようになりました。旅先での通信手段全体は旅行の通信手段の比較で整理しています。

Sources

  1. au「au Starlink Direct」(2026年10月20日時点の情報)(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  2. KDDI「アジア初、次世代衛星『Starlink Mobile V2』契約を締結」2026年9月15日(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  3. NTTドコモ「docomo Starlink Direct」(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  4. NTTドコモ「Starlink衛星とスマートフォンの直接通信サービス『docomo Starlink Direct』を4月27日から提供開始」2026年4月2日(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  5. NTTドコモ「Starlinkと『docomo Starlink Direct』の機能拡充に向け『Starlink Mobile V2』の契約に合意」2026年8月14日(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  6. ソフトバンク「『SoftBank Starlink Direct』を“ソフトバンク”“ワイモバイル”“LINEMO”で4月10日に提供開始」2026年4月10日(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  7. ソフトバンク「SoftBank Starlink Direct」(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  8. 楽天モバイル「AST SpaceMobileとの衛星と携帯の直接通信による国内サービスを2026年内に提供を目指す計画を発表」2024年2月16日(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  9. 楽天モバイル「日本国内で初めて低軌道衛星と市販スマートフォンの直接通信試験によるビデオ通話に成功」2025年4月23日(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  10. 総務省 衛星通信システム委員会「2GHz帯非静止衛星通信システム」の検討の概要(2024年10月)(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  11. 総務省 関東総合通信局「KDDI株式会社に対して衛星ダイレクト通信用無線局の免許を付与」2024年12月25日(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  12. 総務省「衛星コンステレーションによる携帯電話向け700MHz帯非静止衛星通信システムの技術的条件」2026年6月24日(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  13. 総務省 衛星通信システム委員会 報告概要(700MHz帯、2026年6月)(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  14. 総務省「700MHz帯における移動通信システムの普及のための特定基地局の開設計画の認定」2023年10月23日(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  15. Apple サポート「iPhoneで衛星経由の緊急SOSを使う」(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)
  16. Apple サポート「iPhoneで衛星通信に接続する」(2026年10月29日確認)(新しいタブで開きます)

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