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AIに悪態をつき、「ありがとう」も言う?2025年6月の調査の中身と、AIへの礼儀をめぐるその後
「7割がAIに悪態、でも75%は満足」。2025年6月に広まったこの話は、企業サポートのチャットボットについての調査でした。お礼の数字は別の調査です。中身を確かめ、礼儀とAIの回答をめぐるその後の研究をまとめました。

2025年6月、「ユーザーの7割がAIチャットボットに悪態をついた。それでも75%は満足している」という調査結果が海外のテック媒体で紹介され、Modern-Gも7月1日に「悪態をつき、そしてありがとうを言う私たち」として取り上げました。
2026年10月29日に元の調査まで戻って読み直すと、話は少し違っていました。調査が尋ねていたのは企業サイトなどにある顧客サポートのチャットボットについてで、「お礼を言う」という数字は別の調査のものです。この記事では、数字の出どころを整理し直したうえで、「丁寧に頼むとAIの回答は良くなるのか」という問いのその後を追います。
元の調査は何を聞いていたか
出どころは、チャットボットのサービスを提供する米Tidioが2025年6月10日に自社ブログで公開した「Helpful or Hopeless? What People Really Think About Customer Service Chatbots」です。題名のとおり、テーマは問い合わせ対応のチャットボットで、ChatGPTのような汎用のAIアシスタントではありません。
調査方法の欄には、1,300人から回答を集めたこと、Amazon Mechanical TurkとHotjarを使ったこと、質問は18問と12問の2種類で大半が選択式だったことが書かれています。本文によると、内訳はインターネット利用者1,000人超と事業者300人です。一方、国、実施時期、各設問の文面や母数は公表されていません。ネットで集めた回答者による、チャットボットを売る会社の自社調査として読むのが妥当です。
公表されている主な数字は次のとおりです。
| Tidioの記述 | 数字 |
|---|---|
| 苛立ってチャットボットに悪態をついたことがある | 約70% |
| 直近のチャットボットの対応に満足している | 約75% |
| すぐ使えるチャットボットより、人の対応を待つほうがいい | 約30% |
| 問題の解決をチャットボットより「マジック8ボール」に任せたい | 約26% |
| 追加料金を払ってでも人と話したい | 11%超 |
旧記事は「暴言を吐いた経験のある人々の75%が満足」と書いていましたが、これは誤りでした。Tidioの75%は利用者全体についての数字で、悪態をついた人のうち何割が満足しているかという集計は公表されていません。二つの数字は「70%が悪態、それでも75%が満足」と並べて紹介されているだけです。
マジック8ボールは、振ると答えが浮かぶ米国の占いのおもちゃです。比べている相手はサポートのチャットボットで、AI全般ではありません。
「ありがとう」の数字は別の調査
旧記事の中心だった「悪態をついたあとにお礼を言う」という話は、Tidioの調査には出てきません。この組み合わせは、米TechRadarが2025年6月23日にTidioの調査を紹介した記事で、同誌を発行する英Futureの別の調査と並べたことから生まれたものです。
Futureの調査は2024年12月に行われ、米国510人・英国518人が回答しました。TechRadar(2025年2月20日)によると、AIを使っている人のうち、AIに礼儀正しく接していると答えたのは米国で67%、英国で71%でした。米国で礼儀正しい人の理由は82%が「そうするのが良いことだから」、18%が「AIの反乱に備えて」です。
つまり「7割が悪態」と「7割が礼儀正しい」は、対象も時期も国も違う二つの調査の数字です。同じ人が悪態をつき、そのあとにお礼を言っているというデータではありません。
旧記事は、台湾のT客邦(2025年6月30日、快科技の記事の転載)などの中国語の紹介記事とよく似た構成でした。その記事には「最近」悪態をついた、マジック8ボールを「サイコロ」とするなど、元の調査にない言い換えが入っています。
礼儀で回答は良くなるのか:2025年前半までの話
旧記事は、TechRadarのBecca Caddy氏が「お願いします」「ありがとう」を省いたところ、ChatGPTの回答の品質が明らかに下がった、と紹介していました。2025年3月3日の元の記事を読むと、これは実験というより本人の試し書きです。指示だけの短い文にしたら「回答も役に立たない気がした」と書いたうえで、専門家に話を聞いています。
その結論は「ある意味では効く」というものでした。LinkedInのソフトウェアエンジニアは、技術的には礼儀が回答の正確さに影響することはほぼないと説明しました。一方、デート支援サービスの経営者は、丁寧に書くと自然に説明が増え、文脈の豊かなプロンプトになりやすいと話しています。効いているのは礼儀の言葉より、書き足された情報だという見方です。
OpenAIのSam Altman氏の発言も、文脈を補っておきます。2025年4月16日、「お願いします」や「ありがとう」でOpenAIはどれだけ電気代を使っているのか、というX上の一般ユーザーの問いに、Altman氏は「数千万ドル。有意義な使い道だ。わからないものだからね」と返しました。冗談まじりの返信で、OpenAIが試算を公表したものではありません。旧記事の「AIを人間らしく振る舞わせるための投資」という説明は、元の投稿にはありません。
その後の動き(2026年10月時点)
旧記事の公開後、「AIへの態度で回答は変わるのか」については、発言と研究が相次ぎました。ただし結論はそろっていません。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年2月(10月改訂) | 早稲田大学などの研究チームが、英語・中国語・日本語で礼儀の度合いを8段階に変えて比較。失礼な指示は成績が下がりやすいが、丁寧すぎても良くなるとは限らないと報告 |
| 2025年5月 | GoogleのSergey Brin氏が、モデルは「脅したほうがうまくいく」とイベントで発言(The Register、5月28日) |
| 2025年8月15日 | Anthropicが、Claude Opus 4と4.1に、悪質な利用が続く極端なケースで会話を終える機能を追加 |
| 2025年10月6日 | 米ペンシルベニア州立大学の研究者が、GPT-4oでは失礼な聞き方のほうが正答率が高かったとするプレプリントを公開 |
早稲田大学・理化学研究所などのチーム(Yinら、arXiv 2402.14531、SICon 2024)は、GPT-3.5とGPT-4などで要約や多肢選択の問題を解かせました。失礼な指示は成績を下げることが多い一方、丁寧であればあるほど良いわけではなく、最適な丁寧さは言語ごとに違ったとしています。
反対の結果を出したのが、Dobariya氏とKumar氏の「Mind Your Tone」(arXiv 2510.04950)です。数学・科学・歴史の50問を5段階の口調で書き分けた計250のプロンプトをGPT-4oに解かせたところ、正答率は「とても丁寧」で80.8%、「とても失礼」で84.8%でした。モデル1つ、問題50問の小さな研究で、2026年10月時点では査読前のプレプリントです。
Brin氏の発言について、The Registerは大学の研究者の「ほとんどが逸話で、体系的な研究の結果はまちまちだ」というコメントを添えています。研究どうしの結果が食い違っている以上、「丁寧に頼めば精度が上がる」とも「脅せば上がる」とも言い切れないのが2026年10月時点の状況です。
Anthropicの機能は、性格が少し違います。対象は、何度方向を変えようとしても有害な要求や虐待的なやりとりが続く「まれで極端な」ケースに限られ、普通の言葉づかいの悪さは含みません。同社はAIに道徳的な地位があるかは「非常に不確か」としつつ、モデルの福祉(ウェルフェア)への低コストの備えとして導入したと説明しています。会話を終えられても、利用者は新しい会話を始められます。
結局、AIにはどう話しかければいいか
ここからは編集部の見方です。ここまでの研究からは、「お願いします」の一言で答えが目に見えて良くなる、とは言えません。一方で、何をしてほしいのか、前提は何か、どんな形で答えてほしいのかを丁寧に書くことは、どの研究とも矛盾しない実用的なコツです。
悪態についても同じです。サポートのチャットボットに苛立つのは、多くの場合、話が通じずに堂々めぐりになるときでしょう。Tidioの調査で約30%が人の対応を待つと答えたのも、AIへの礼儀や感情より、問題が解決するかどうかの話として読むほうが自然です。
AIとの付き合い方では、AIが利用者に同調しすぎる問題をAIの「ご機嫌取り」現象で、ChatGPTの口調を選べる機能をChatGPTの「個性」設定で取り上げています。会話が長くなると答えが乱れる話はコンテキスト汚染のエッセイ、AIに本音を打ち明ける人についてはChatGPTにプロポーズした男性の話も参考になります。
Sources
- Tidio「Helpful or Hopeless? What People Really Think About Customer Service Chatbots [Study]」2025-06-10(2025-08-21更新) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- TechRadar「Swearing at AI is now part of normal daily tech interactions for many」2025-06-23 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- TechRadar「Are you polite to ChatGPT? Here's where you rank among AI chatbot users」2025-02-20 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- TechRadar「I stopped saying thanks to ChatGPT – here's what happened」2025-03-03 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Sam Altman(X)2025-04-16 (2026-10-29確認、Xの公式oEmbedで本文を確認)(新しいタブで開きます)
- T客邦「調查顯示70%用戶最近曾對 AI 氣到罵髒話,但大多數人還是會向AI聊天機器人說謝謝」2025-06-30 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- arXiv「Should We Respect LLMs? A Cross-Lingual Study on the Influence of Prompt Politeness on LLM Performance」2024-02-22(2024-10-14改訂) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- arXiv「Mind Your Tone: Investigating How Prompt Politeness Affects LLM Accuracy (short paper)」2025-10-06 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- The Register「Sergey Brin suggests threatening AI for better results」2025-05-28 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Anthropic「Claude Opus 4 and 4.1 can end certain conversations」2025-08-15 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
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