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インスタのAI動画が気持ち悪いのはなぜ?2025年の「AIゴミ」問題とその後
体がありえない向きに回る、文字が読めない、同じ型の動画が延々と流れてくる。2025年7月に書いた「AIゴミ」の記事を、一次情報で確かめ直し、その後のルールまで追いました。

Instagramのリールを流していると、どこか様子のおかしい動画に出くわすことがあります。人の首がありえない向きに回る、看板の文字が読めない、同じ型の動画が延々と続く。「なんとなく気持ち悪い」と感じるのは、気のせいではありません。
この記事は2025年7月に公開したものを、2026年10月に全面的に書き直しました。当時「AIゴミ」と呼ばれた現象を一次情報で確かめ直し、なぜ不快に感じるのか、どう見分けるのか、そしてその後プラットフォームがどんなルールを作ったのかまでを整理します。
2025年7月、何が「AIゴミ」と呼ばれていたのか
英語圏では、手間をかけずに大量に作られた低品質なAI生成コンテンツを「AI slop(AIスロップ)」と呼びます。slopはもともと家畜にやる残飯のこと。旧記事のタイトルの「AIゴミ」も、この言い方を受けたものでした。
2025年の初夏にこの話題が目立った背景の一つは、動画生成AIの進化です。Googleは2025年5月20日、映像と同時に音声も作れる「Veo 3」を発表し、まず米国の有料プラン(Google AI Ultra)の利用者向けに提供を始めました。街の騒音や鳥の声、登場人物どうしの会話まで、プロンプト(指示文)だけで生成できるとしています。編集部としては、音まで「それらしく」なったことで、短い動画のフィードにAI製の映像が混ざっても気づきにくくなったと見ています。
旧記事が最初に挙げたのは、ふくよかな女性がボートから海に飛び込む動画です。旧記事は「Instagramで2.52億回再生」と書きましたが、その投稿と再生数は今回の調査では確認できませんでした。一方、同じ構図の約10秒の動画は、米国のファクトチェック団体Lead Storiesが2025年7月1日に検証しています。
同団体によると、背を向けて座っていた男性たちが、体はそのままで首だけをほぼ180度回して女性を見ていました。船が傾いても船尾の2人が姿勢を変えないままなど、物理的にも不自然な点があり、Hive社のAI検出ツールではAI生成の可能性が93.9%と判定されました。旧記事は「フクロウのように首を360度」と書きましたが、同じ動画かは断定できず、Lead Storiesが検証した動画では「ほぼ180度」でした。
食べ物の姿をした人型のキャラクターが、自分と同じ食べ物を食べる動画シリーズ「You Are What You Eat」も話題になりました。作者はデジタルアーティストのBennett Waisbren氏で、Instagramへの投稿は少なくとも2025年3月から紹介されています。ただし、どの生成ツールで作られたかは確認できませんでした。
この時期、AIで作られた「ありえない映像」が本物として出回る例は続いていました。Modern-Gでも、飛行機のカンガルー動画や、実在しない絶景に人が足を運んでしまった件を取り上げています。
なぜ「気持ち悪い」と感じるのか:不気味の谷と、壊れた物理
AIの人物動画に覚える独特の嫌な感じは、ロボット工学者の森政弘氏が1970年に提唱した「不気味の谷」でよく説明されます。ロボットの見た目が人間に近づくほど親しみは増しますが、「ほぼ人間なのに、どこか違う」段階で親しみが急に落ち込み、不気味さに変わる、という考え方です。旧記事は「恐怖の谷現象」と書きましたが、日本語では「不気味の谷」が定着した呼び方です。
AI動画は、この谷のちょうど底を突きやすい作り方をしています。肌や光の質感は写真のようにリアルなのに、首や関節の向き、物の重さといった「世界のルール」がときどき壊れる。見た目が本物らしいぶん、壊れた部分が強い違和感になります。
食べ物の擬人化動画のように、作者がわざと不気味さを狙った作品もあります。編集部としては、これは表現の一つであり、「AIだから悪い」とは考えません。問題になるのは、不快さや驚きで再生数だけを稼ぐために、同じ型の動画を大量に流し込むやり方のほうです。
なぜ増えるのか:安く大量に作れて、おすすめに乗りやすい
編集部の見方では、構図は単純です。SNSのおすすめ欄は、見た人の反応を手がかりに動画を広げます。奇妙で目を引く映像は、思わず手を止めたりコメントしたりといった反応を集めやすい。そこに、数行の指示文で短い動画を作れる生成AIが加わると、作る手間はほぼゼロになり、「当たる」まで量産する戦略が成り立ちます。
YouTubeの収益化ポリシーも、こうした量産型の動画を名指ししています。同ポリシーは、「量産をうかがわせる、ありきたりなテンプレートで作られたAI生成コンテンツ」や、明確な筋のないAIクリップのつなぎ合わせを、収益化の対象外としています。InstagramのフィードがAI動画「だらけ」に見えるのも、見る人が多いからだけでなく、作る側の経済的な動機が強いからだと編集部は考えています。
論文の世界にも:旧記事の3つの事例を確かめ直す
旧記事は、低品質なAI生成物が学術の世界にも入り込んでいる例として3つを挙げていました。どれも実際にあった出来事ですが、時期と数字には修正が必要です。いずれも2025年7月の新しい話ではなく、2024年に報告されたものです。
1つ目は、Google Scholar上のAI生成とみられる論文の調査です。スウェーデンのブロース大学、ルンド大学などの研究者が2024年9月3日に「HKS Misinformation Review」で発表しました。ChatGPTに特有の言い回しで検索して227本を集め、そのうち139本を、AIの使用を開示していない疑わしい論文と判断しています。
旧記事の「数百件」は、言い回しで見つかった論文(227本)に近い数字で、疑わしいと判断されたのは139本でした。そのうち索引つきの学術誌に載ったものは19本です。テーマは計算機科学、環境、健康といった政策に関わる分野が多かったとしています。
2つ目は、画像生成AI「Midjourney」で作った図を載せた論文です。2024年2月13日に学術誌「Frontiers in Cell and Developmental Biology」に掲載され、解剖学的にありえないネズミ(ラット)の図や意味をなさない英単語のラベルが批判を集めて、3日後の2月16日に撤回されました。旧記事は「医学論文のカートゥーンマウス」と書きましたが、分野は細胞・発生生物学、動物はラットです。
3つ目は、査読コメントの文章の変化です。Liangらは2024年3月にarXivで公開した論文で、AI分野の国際会議ICLR 2024の査読文を分析し、ChatGPTの登場後に「commendable」「meticulous」「intricate」の出現確率がそれぞれ9.8倍、34.7倍、11.2倍になったと推定しました。調べた4つの会議の査読文のうち6.5〜16.9%が、大規模言語モデルで大きく書き換えられた可能性があるとも見積もっています。旧記事の「前年の数十倍」は、数字としては一部の語にしか当てはまりません。
研究とAIの関係では、2025年7月に論文の隠し文字でAI査読を誘導した件も報じられています。
低品質なAIコンテンツの見分け方
完璧な見分け方はありません。それでも、いくつかの手がかりを順に当てると、「たぶんAIで量産されたもの」は気づける場面が増えます。
最初に見るのは、プラットフォームのラベルです。InstagramとFacebookでは、業界共通の信号や投稿者の申告からAI生成と判断された投稿に「AI info」のラベルが付きます。YouTubeでは、リアルに見える改変・合成コンテンツに、投稿者の申告や自動判定でラベルが付きます。
次に、映像の中身です。Lead Storiesが指摘したような、体と首の向きのずれや、船が傾いても人が動かないといった物理の破綻は、わかりやすいサインです。Midjourneyの論文図のように、看板や画面の文字が意味をなさないのも手がかりになります。
最後に、文脈です。最初に投稿した人と日付をたどれるか、そのアカウントが同じ型の動画ばかり量産していないかを見ます。ニュース性のある映像なら、報道機関やファクトチェック団体が取り上げていないかを確かめるのが確実です。夜の裏庭でウサギが跳ねるAI動画がTikTokで広まった件のように、何気ない日常の一場面を装った映像ほど、本物と思い込みやすい点にも注意が必要です。
その後の動き(2026年10月時点)
2025年7月以降、プラットフォームは「AIを禁じる」のではなく、「量産された中身のないものは広げない・稼がせない」「AIで作ったことを分かるようにする」という2つの方向でルールを固めてきました。確認できた主な動きは次のとおりです。
| 日付 | 動き | 出典 |
|---|---|---|
| 2025年7月15日 | YouTubeが収益化ポリシーの「repetitious content」を「inauthentic content」に改称し、量産・反復的なコンテンツが対象だと明確化 | YouTube |
| 2025年9月10日 | GoogleがPixel 10のカメラで撮った全写真にC2PAのコンテンツ認証情報を付けると発表 | |
| 2025年10月16日 | Pinterestが、美容やアートなどのカテゴリでAI生成の画像ピンを減らせる設定を導入 | |
| 2025年11月19日 | TikTokが、おすすめに出るAI生成コンテンツの量を調整する機能のテストと、見えない透かしの追加を発表 | TikTok |
| 2026年1月21日 | YouTubeのNeal Mohan CEOが年頭の書簡で「AIスロップ」への対応を表明。既存のスパム対策を土台に、低品質で反復的なコンテンツの拡散を抑えるとした | YouTube |
| 2026年3月10日 | Metaの監督委員会が、AI生成の紛争動画にラベルを付けなかったMetaの判断を覆し、AIコンテンツ専用の基準とC2PAの大規模な導入を勧告 | 監督委員会 |
| 2026年5月19日 | GoogleがGeminiアプリでC2PAの検証を開始し、SynthIDの検証をGoogle検索に広げると発表 | |
| 2026年8月2日 | EUのAI法第50条(透明性義務)が適用開始。AI生成物への機械可読な目印と、ディープフェイクの表示を求める。8月2日より前に市場に出ていた生成AIの目印の義務には、2026年12月までの猶予がある | 欧州委員会 |
量の面では、動画編集サービスのKapwingが2025年11月28日に公表した調査が目を引きます。新しく作ったYouTubeアカウントで最初に表示された500本のショート動画のうち、104本(21%)がAI生成だったとしています。分類の方法は公表されておらず、1つのアカウント・1時点の調査ですが、「AIだらけ」という実感を裏づける数字の一つです。YouTubeがAIスロップと呼ばれたチャンネルを削除した件は、女性射殺AIチャンネルの記事で取り上げました。
投稿する側に求められていることも、2026年10月時点でかなり具体的になっています。
| プラットフォーム | 投稿者に求めること | 見る側の手がかり |
|---|---|---|
| YouTube | リアルな改変・合成コンテンツは投稿時に申告。量産型のAI動画は収益化の対象外 | プレーヤーや説明欄のラベル |
| Instagram・Facebook | 写実的な動画やリアルな音声をデジタルで作成・改変した場合は申告。怠るとペナルティの可能性 | 「AI info」ラベル |
| Google検索 | AIの利用自体は禁止しないが、価値のないページの大量生成はスパム | Geminiアプリで、GoogleのAI製かを確認 |
Googleの検索向けガイドは、生成AIの利用自体は問題にせず、「ユーザーに価値を加えずに多くのページを生成する」行為を「大規模なコンテンツの不正使用」としてスパムに位置づけています。調べ物に役立つ、構成を整えるといったAIの使い方は認められています。
画像や動画の出どころを確かめる手段も増えました。Geminiアプリには、Googleの生成AIで作られたかどうかを電子透かし「SynthID」で調べる機能があります。ただし判定できるのはGoogleのAIで作られたものだけです。C2PA方式の来歴情報は、カメラで撮った元の写真か、何で加工されたかを示せますが、すべての投稿に付いているわけではありません。AI動画の生成技術そのものをめぐる論点は、Sora 2を取り上げた記事も参考になります。
まとめ:問題は「AIかどうか」より「誰が、何のために作ったか」
2025年7月に「AIゴミ」と呼ばれたものの正体は、生成AIそのものではなく、反応だけを狙って安く大量に流し込まれるコンテンツでした。1年あまりで、YouTubeは量産型の動画を稼がせない方針を明確にし、Google検索は価値のない大量生成をスパムとする方針を維持し、PinterestはAI生成の画像を減らせる設定を導入し、TikTokも同様の機能のテストを発表しました。
AIで作られたものがすべて「ゴミ」なわけではありません。YouTubeのポリシーも、自分で考えたキャラクターと物語をAIで映像にすることは認めています。気持ち悪さを覚えたら、ラベル、映像の破綻、投稿元の3つを確かめ、怪しい動画には反応しない。おすすめ欄は反応で育つので、それがいちばん効く自衛策です。
Sources
- Google「Fuel your creativity with new generative media models and tools」(2025-05-20) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Lead Stories「Fact Check: Video Of Big Woman Jumping Off And Sinking Boat IS NOT Real -- A Deepfake」(Alan Duke、2025-07-01) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Laughing Squid「Creepy AI Generated Humanoid Food Creatures That Eat the Food From Which They Are Made」(Lori Dorn、2025-03-10) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- IEEE Spectrum「The Uncanny Valley: The Original Essay by Masahiro Mori」(2012-06-12、原文は1970年『Energy』誌) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- HKS Misinformation Review「GPT-fabricated scientific papers on Google Scholar: Key features, spread, and implications for preempting evidence manipulation」(Haiderほか、2024-09-03) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Frontiers in Cell and Developmental Biology「RETRACTED: Cellular functions of spermatogonial stem cells in relation to JAK/STAT signaling pathway」(2024-02-13) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Frontiers in Cell and Developmental Biology「Retraction notice」(2024-02-16) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- GIGAZINE「学術誌に画像生成AI『Midjourney』で生成した意味不明なイラストを含む論文が掲載される」(2024-02-16) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- arXiv「Monitoring AI-Modified Content at Scale: A Case Study on the Impact of ChatGPT on AI Conference Peer Reviews」(Weixin Liangほか、2024-03-11) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- YouTubeヘルプ「YouTube channel monetization policies」(2025-07-15の更新を含む) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- YouTubeヘルプ「Disclosing use of altered or synthetic content」 (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- YouTube Official Blog「The Future of YouTube: Neal Mohan's 2026 letter」(2026-01-21) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Meta「Labeling AI-Generated Images on Facebook, Instagram and Threads」(Nick Clegg、2024-02-06) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Meta「Our Approach to Labeling AI-Generated Content and Manipulated Media」(2024-04-05、2024-07-01と2024-09-12の更新を含む) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Oversight Board「Board Calls for New Rules on Deceptive AI During Conflicts」(2026-03-10) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Google Search Central「Spam policies for Google web search」(2026-08-28更新) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Google Search Central「Google Search's guidance on using generative AI content on your website」(2026-10-01更新) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Google「How Pixel and Android are bringing a new level of trust to your images with C2PA Content Credentials」(Eric Lynch、Sherif Hanna、2025-09-10) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Google「How we're bringing AI image verification to the Gemini app」(2025-11-20) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Google「Making it easier to understand how content was created and edited」(2026-05-19) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Pinterest Newsroom「Pinterest rolls out new tools to give users more control over GenAI content」(2025-10-16、2025-12-12更新) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- TikTok Newsroom「More ways to spot, shape and understand AI-generated content」(2025-11-19) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- C2PA「FAQ」 (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- 欧州委員会「Quick Facts: Transparency rules for AI systems」(2026-07-29更新) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
- Kapwing「AI Slop Report: The Global Rise of Low-Quality AI Videos」(Liam Curtis、2025-11-28) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
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