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AI女優ティリー・ノーウッドとは:2025年秋の論争と、その後の俳優組合の新ルール

「事務所と契約へ」は実現せず、制作者は1年後に「代理人は要らない」と語りました。2025年秋のAI女優論争を、当時の発言とその後の動きから整理し直します。

Modern-G 編集部更新 約6分で読めます
暗い舞台の上からスポットライトが落ち、光の中に誰も座っていないディレクターズチェアが浮かぶ、舞台照明風のイラスト
イラスト:Modern-G

2025年9月、AIで作られた「女優」ティリー・ノーウッドが、ハリウッドで大きな反発を呼びました。実在の人間ではないキャラクターを、俳優のように事務所に所属させようとしている、という話が広まったためです。

Modern-Gは2025年10月2日にこの論争を紹介しました。この記事は2026年10月に当時の発言を確かめ直し、時系列の誤りを正したうえで、その後1年の動きを加えたものです。

ティリー・ノーウッドとは

ティリー・ノーウッドは、オランダ出身の俳優・コメディアンのエリーネ・ファン・デル・フェルデン氏が、ロンドンの制作会社Particle6で生み出したAIのキャラクターです。2025年7月には、Particle6が制作したコメディのスケッチ「AI Commissioner」で最初の「役」を演じたと告知されました。9月には、Particle6から分かれたAIタレントスタジオ「Xicoia」が発表され、ティリーはその最初のキャラクターになりました。

米TheWrapによると、インスタグラムのアカウントはティリーが「ロンドン在住」だと紹介しており、9月28日時点のフォロワーは1,400人ほどでした。報道が広がると、数日で約4万人に増えています。

2025年9月27日〜30日に起きたこと

9月27日

ファン・デル・フェルデン氏は、チューリッヒ映画祭の業界向け部門「チューリッヒ・サミット」の討論会で、「最初は『それ何?』と言われたが、これから数か月のうちに、どの事務所が彼女を代理するかを発表する」と話しました。米業界誌Deadlineはこれを「タレント事務所がAI女優に群がる」という見出しで報じ、話題が一気に広がります。

9月29日

俳優のエミリー・ブラントさんは、米Varietyのポッドキャストの収録中にティリーの存在を知らされ、「それがAIなの? まいった、私たちは終わりね。本当に怖い。事務所の皆さん、やめて。人間どうしのつながりを奪わないで」と反応しました。同じ日、ファン・デル・フェルデン氏は声明を出し、「彼女は人間の代わりではなく、創作物、つまり一つの芸術作品です」と説明しています。

9月30日

米国の俳優組合SAG-AFTRAは、「はっきりさせておくと、『ティリー・ノーウッド』は俳優ではなく、数えきれないプロの演技を許可も対価もなく学習したコンピュータープログラムが生成したキャラクターだ」とする声明を出しました。組合と契約を結ぶ制作会社が合成パフォーマー(AIで作った出演者)を使う場合は、組合への通知と交渉が契約上の義務だとも念を押しています。同じ日、大手事務所のGershとWMEは、ティリーと契約しないと相次いで表明しました。WMEの幹部は「私たちは人間を代理している」と話しています。

この週の9月30日には、OpenAIが動画生成AI「Sora 2」を発表しており、AIが作る映像への警戒が重なった時期でもありました。

その後の動き(2026年10月時点)

事務所との契約は実現せず

ファン・デル・フェルデン氏はVarietyに、事務所との話し合いは2025年9月以降途絶えたと説明しています(2026年7月)。ファン・デル・フェルデン氏は2026年9月26日、再びチューリッヒ・サミットに登壇し、「彼女に代理人は必要ないと分かった。十分に大きな存在だから」と話しています。従来の実写映画への出演依頼は断っているとも述べました。

活動の広がり

Particle6は2025年11月、ティリーの世界を作るために40人ほどのAIキャラクターを増やす計画を明かしました。2026年3月には、ティリーと仲間のAIキャラクターが活動する「Tillyverse」構想と、俳優にAIを受け入れるよう呼びかけるミュージックビデオ「Take The Lead」を発表しています。7月には、ティリーが主演するAIの長編映画『Misaligned』を発表しました。9月の時点で制作中とされ、公開日は発表されていません。

ティリーの公式サイトは現在、自身を「啓発のためのプロジェクトであり、一つの芸術作品」と紹介し、同意や肖像、クレジット、表示についての本当のルールが必要だと書いています。

俳優組合の新しい契約

SAG-AFTRAと制作者団体AMPTPは2026年5月2日に新しい劇場映画・テレビ契約で合意し、組合員は6月4日に91.42%の賛成で承認しました。

期間は2026年7月1日から2030年6月30日です。TheWrapが報じた組合の要約によると、合成パフォーマーについて次の仕組みが入りました。AIの出演者を使うたびに組合員の出演料に相当する額を基金に支払う、通称「ティリー税」は、組合が提案すると見られていましたが、TheWrapによれば制作側の関係者は「受け入れられない案だった」としており、今回の劇場映画・テレビ契約には入っていません。

SAG-AFTRAの2026年の契約での合成パフォーマーの扱いを示す流れ図。人間の組合員が演じられる役なら原則は人間の俳優を使う。AIを使うなら制作側が組合に通知し、交渉して「大きな付加価値」を示す。合意できなければ組合が仲裁を求めることができ、請求額は人間の俳優に払われたはずの出演料の額に必ずしも限られない。「付加価値」の定義は決まっていない。
SAG-AFTRAの2026年の劇場映画・テレビ契約での合成パフォーマー(AI俳優)の扱い。TheWrap(2026年5月22日)が報じた組合の要約をもとに作図Modern-G作図

法律

俳優の肖像や声をAIで再現することをめぐるルールも動いています。

地域内容(2026年10月時点)
米国(連邦)本人の許可のないデジタルな複製を規制するNO FAKES Actが2026年5月に再提出され、6月18日に上院司法委員会を通過。本会議での採決は止まっており、法律にはなっていない
米カリフォルニア州俳優のデジタルな複製の契約条件などを定める2つの州法(AB 2602、AB 1836)が2024年9月に成立し、2025年1月に施行
米ニューヨーク州広告にAIで作った合成パフォーマーが登場する場合の表示を義務づける州法が2025年12月に成立、2026年6月に施行
EUAI法第50条により、ディープフェイクなどAIで生成・加工したコンテンツの表示義務が原則として2026年8月2日から適用

日本では

俳優・声優約2,600人が加盟する日本俳優連合は、2023年6月にAIの生成物であることの明示や「声の肖像権」の確立を求める提言を出しました。2026年10月15日には「音声に関する生成AI利用ガイドライン」を発表しています。

論争から1年で見えたこと

2025年の論争は「AI女優が人間の俳優の仕事を奪うのか」という問いとして広がりました。1年たってみると、ティリーは人間の俳優と同じ土俵には立たず、AIだけで作る作品の中のキャラクターとして活動しています。一方で、組合の契約や各国の法律は、AIの出演者を使うときの条件や表示のルールを具体的に決め始めました。

編集部としては、ティリーの意味は、AIの出演者そのものよりも、学習に使われた演技への対価や、本人の同意、AIであることの表示といった論点を、業界と社会に一気に突きつけた点にあると考えます。「大きな付加価値」の定義のように、まだ決まっていないことも多く残っています。

AIと芸能・エンタメをめぐっては、AI歌手Xania Monetの記事、ディズニーとユニバーサルがMidjourneyを訴えた記事もあわせてどうぞ。動画生成AIについてはSora 2がもたらした問題の記事で取り上げています。

Sources

  1. Deadline「Talent Agents Circle AI Actress Tilly Norwood」(2025-09-27) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  2. Variety「Emily Blunt Reacts to AI Actress Tilly Norwood Signing News」(2025-09-29) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  3. Deadline「Creator Of AI Actress Tilly Norwood Puts Out Statement After Backlash」(2025-09-29、制作者の声明を掲載) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  4. Deadline「SAG-AFTRA Responds To AI Actress 'Tilly Norwood' Furor」(2025-09-30、組合の声明を掲載) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  5. Variety「Gersh Will Not Sign AI Actress Tilly Norwood: 'We're Not That Agency'」(2025-09-30) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  6. Variety「AI Actor Tilly Norwood to Make Movie Debut in Comedy-Drama Misaligned」(2026-07-06) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  7. Deadline「Does AI 'Actress' Tilly Norwood Have An Agent? "No, We Don't Need It"」(2026-09-26) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  8. Tilly Norwood 公式サイト (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  9. Deadline「SAG-AFTRA Members Approve AMPTP Deal」(2026-06) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  10. TheWrap「SAG-AFTRA's New AI Protections: What They Mean for Actors」(2026-05-22) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  11. TheWrap「AI 'Actress' Tilly Norwood Will Be Signed by an Agency Soon, Creator Claims」(2025-09-28) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  12. TheWrap「WME Won't Represent AI Actress Tilly Norwood, Leaders Say」(2025-09-30) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  13. A.V. Club「Tilly Norwood creator says she's got 40 more just like "her" in the works」(2025-11-07) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  14. Variety「Tilly Norwood Creator Launches AI Actor Universe the 'Tillyverse'」(2026-03-02) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  15. Deadline「Tilly Norwood Music Video 'Take The Lead' Released By Particle 6」(2026-03-10) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  16. Variety「Tilly Norwood Movie Rekindles Hollywood Concerns Over AI 'Actor'」(2026-07-10) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  17. RBR「Cruz Control: Senator Delays 'NO FAKES Act' Vote On Concerns」(2026-10-09) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  18. ニューヨーク州知事室「Governor Hochul Announces First-in-the-Nation Law Requiring Disclosure When Advertisements Include AI」 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  19. EU AI法 第50条(非公式の条文ビュー) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  20. 日本俳優連合「生成系AI技術の活用に関する提言」(2023-06-13) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  21. 日本俳優連合「音声に関する生成AI利用ガイドライン」(2026-10-15) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)

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