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AIに「右」と「左」はあるのか:党派色のチャットボット報道とその後
偏りは、学習データにも、調整にも、AIへの指示文にも、参照する情報源にも入りえます。2025年11月の記事を、事例の出典と、その後の評価や規制から読み直します。

2025年11月4日、米ニューヨーク・タイムズ(NYT)は「右派のチャットボットが米国の政治・文化の対立をあおる」と題した記事を載せました。保守派のSNSや団体が独自のAIチャットボットを作り、NYTの検証では、政治的に意見が分かれる質問で答えが大きく食い違った、という内容です。
Modern-Gはこの話を2025年11月21日に、中国メディアの記事を元に紹介しました。ただ、元の記事で確かめられない引用や、事実と違う説明が含まれていました。この記事は2026年10月に出典を確かめ直し、偏りがどこから入るのかの整理と、その後の動きを加えたものです。
2025年11月に報じられたこと
NYTの記事は有料で、この記事では他紙に配信された冒頭部分で内容を確かめました。NYTによると、調べたチャットボットは答えの調子や強調点が違うだけでなく、議論の分かれる主張をしたり、事実をでっち上げたりするものもありました。記事が挙げた例は次のとおりです。
- Arya:保守系SNSのGabが自社のモデルとして提供するチャットボット。「臆面のない右派のナショナリストでキリスト教徒のAIモデル」として振る舞うよう指示されている
- Enoch:健康情報サイトのNatural Newsが作ったもの。回答から「製薬業界寄りの偏りを消す」とうたう。同サイトは、代替医療などの1億ページ以上で学習した120億パラメーターのモデルだと説明している
- Grok:イーロン・マスク氏のxAIが作り、Xに組み込まれたもの。ある投稿で、自分は「最大限の真実の追求」をしていると主張した
NYTの記事は、ワシントン大学名誉教授で、偽の政治コンテンツに取り組む非営利団体を設立したオレン・エツィオーニ氏の言葉も伝えています。「人々は、メディアを選んできたのと同じように、好みの味のAIを選ぶようになる」「唯一の過ちは、事実を得ていると信じることだ」。
同じ記事は、OpenAIとGoogleがChatGPTやGeminiを偏りのないように作ろうとしてきた一方で、多くの回答がリベラル寄りだと批判されてきたことにも触れています。右派のチャットボットは、そうした主流のAIへの不信を背景に出てきたものです。
同じ流れで、トランプ大統領のSNS「Truth Social」は2025年8月、Perplexityの技術を使ったAI検索「Truth Search AI」を始めています。TechCrunchによると、どの情報源を使うかはTruth Social側が決められ、Perplexityの広報は「Truth Socialが限定した情報源に沿った正確さになる」と説明しました。同記事が紹介した米Axiosの調べでは、回答の情報源はFoxNews.comが最多、または唯一でした。
Grokに起きたこと(2025年)
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2023年4月 | マスク氏が、「TruthGPT」と呼ぶ「最大限に真実を追求するAI」の構想を語る(製品はのちにGrokとして公開) |
| 2025年5月14日 | Grokが無関係な投稿への返信でも、南アフリカの「白人ジェノサイド」に触れ続けた。xAIは「無許可の変更」が指示文に加えられたと説明し、指示文をGitHubで公開し始めた |
| 2025年5月 | ホロコーストの犠牲者数について「一次資料がなければ懐疑的だ」と答えた。のちにGrok自身が、5月14日の「プログラムの誤り」によるものと投稿した(ガーディアン) |
| 2025年7月 | ヒトラーを称える投稿などが問題になり、xAIが謝罪。原因は16時間有効だったシステムの更新だと説明した |
偏りはどこから入るのか
旧記事は「AIが左右を持ち始めた」と書きましたが、事例を見ると、偏りが入る場所は一つではありません。
- 学習データ:何を読ませるかで、知識と語り口が変わる。Enochは、運営者自身が「代替的な」情報を集めて学習させたと説明している
- 学習後の調整:人の評価などで答え方を整える段階。各社が中立を目指して手を入れる一方、その手入れ自体が偏りだと批判されることもある
- AIへの指示文(システムプロンプト):Aryaのように、立場そのものを指示文で与える例がある。Grokの2025年5月の件は、指示文への無許可の変更が原因だとxAIは説明した
- 回答で参照する情報源:Truth Search AIのように、使う情報源を絞れば、同じモデルでも答えの傾向は変わる
逆の方向の試みもあります。データサイエンティストのデビッド・ロサド氏と政治哲学者のスティーブ・マッキントッシュ氏が作ったDepolarizingGPTは、1つの質問に「左派」「右派」「分断を和らげる」の3つの答えを並べて返します。2026年10月時点でも公開されています。
その後の動き(2026年10月時点)
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2025年7月23日 | 米大統領令「Preventing Woke AI in the Federal Government」。連邦政府が調達するAIに「真実の追求」と「イデオロギー的中立」の2原則を求めた |
| 2025年11月13日 | Anthropicが政治的な公平さの評価を公開。同社の採点ではClaude Opus 4.1が95%、Gemini 2.5 Proが97%、Grok 4が96%、GPT-5が89%、Llama 4が66%。同社は「政治的な偏りの定義にも測り方にも合意はない」と注記 |
| 2025年12月4日 | 英Natureに、AIとの対話が有権者の候補者への評価を動かすという研究。米・カナダ・ポーランドの選挙で、従来の動画広告より大きな効果が見られたという |
| 2025年12月11日 | 米行政管理予算局(OMB)が大統領令を受けた指針M-26-04。各省庁に、2026年3月11日までに調達の方針を改め、大規模言語モデルの調達契約に2原則の順守を求める条項を入れるよう求めた(指針は発出から2年で失効) |
| 2026年4月2日 | 京都府知事選の前に、Grokが京都新聞の情勢調査を事実と違う形で要約し、同紙がXに削除を求めた(朝日新聞) |
| 2026年4月以降 | xAIのAI百科事典「Grokipedia」(2025年10月27日公開)は、4月24日以降どの記事も更新されていないようだ、と米Lawfareが8月5日に報じた |
Natureの研究チームによると、AIは主に関連する事実や根拠を示して説得していましたが、示された事実がすべて正確だったわけではなく、3か国とも、より右寄りの候補者を支持するよう設定されたAIのほうが不正確な主張が多かったといいます。同じ年に公開された別の大規模実験(arXiv、2025年7月、査読前)は、説得力を高めるための調整や指示が、事実の正確さを下げる傾向があったとしています。どちらも、AIの「説得力」と「正確さ」が別物であることを示した研究です。
使う側として気をつけたいこと
政治的な偏りの評価は、評価する側が「何を公平とみなすか」に左右されます。Anthropicのように評価方法を公開する会社もありますが、外部の合意された基準はまだありません。
編集部としては、意見が分かれる話題でAIを使うときは、どの情報源を見て答えているかを確かめること、反対の立場から見るとどうなるかもあわせて尋ねること、そして選挙や健康のように誤りの影響が大きい話題では、AIの要約ではなく元の報道や公的な情報にあたることをすすめます。エツィオーニ氏の言葉どおり、AIの答えを「事実そのもの」と思い込まないことが出発点です。
AIがユーザーに合わせすぎる問題は「AIのご機嫌取り」の記事、米国のAI規制をめぐる動きはAI規制の停止案の記事で取り上げています。AIが量産するコンテンツはAIスロップの記事もあわせてどうぞ。
Sources
- Hawaii Tribune-Herald「News in brief for November 5」(NYT「Right-Wing Chatbots Turbocharge America's Political and Cultural Wars」2025-11-04の配信) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Gab AI「Gab AI」(Aryaを「Gab’s own model」と説明) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Natural News「Free AI model "Enoch" released to combat global censorship and monopolistic control」(2025-10-14) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- TechCrunch「Truth Social's AI search is powered by Perplexity, but the platform can set limits on sources」(2025-08-07) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Business Insider「Elon Musk Says He's Building AI He Calls 'TruthGPT' in Riff on ChatGPT」(2023-04-17) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- TechCrunch「xAI blames Grok's obsession with white genocide on an 'unauthorized modification'」(2025-05-15) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- The Guardian「Musk's AI bot Grok blames 'programming error' for its Holocaust denial」(2025-05-18) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- The Guardian「Elon Musk's AI firm apologizes after chatbot Grok praises Hitler」(2025-07-12) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- DepolarizingGPT「The 3-Answer Political AI from Developmental Politics」 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- The White House「Preventing Woke AI in the Federal Government」(2025-07-23) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- OMB「M-26-04 Increasing Public Trust in Artificial Intelligence Through Unbiased AI Principles」(2025-12-11)(OMBの通達一覧に掲載) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Anthropic「Measuring political bias in Claude」(2025-11-13) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Lin, H. ほか「Persuading voters using human–artificial intelligence dialogues」(Nature、2025-12-04) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Hackenburg, K. ほか「The Levers of Political Persuasion with Conversational AI」(arXiv:2507.13919、2025年7月) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- 朝日新聞「京都新聞がXに誤情報の削除を要請 知事選の情勢報道めぐり」(2026-04-02) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
- Lawfare「Grokipedia Stopped Reviewing Edits in April. It Didn't Tell Anyone.」(2026-08-05) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
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