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マスクの「宇宙データセンター」構想とペロブスカイト太陽電池:2026年2月の報道と、その後

宇宙なら冷却に悩まない、という話ではありませんでした。マスク氏自身が語ったのは「太陽と反対側に向けた放熱板」です。2026年2月の記事を、一次資料から読み直します。

Modern-G 編集部更新 約6分で読めます
濃紺の宇宙に網点で描いた地球の縁と太陽が浮かび、大きな太陽電池の翼を広げた衛星が軌道を回る、二色刷り風のイラスト
イラスト:Modern-G

2026年1月22日、スイス・ダボスの世界経済フォーラム(WEF)で、イーロン・マスク氏はブラックロックのラリー・フィンクCEOと対談し、「太陽光で動くAIデータセンターを宇宙に作るのは、考えるまでもない(no brainer)」と語りました。その8日後、SpaceXは米連邦通信委員会(FCC)に、最大100万基の衛星で「軌道上データセンター」を作る計画を申請しています。

Modern-Gはこの話を2026年2月16日に、宇宙用の太陽電池としてペロブスカイトが注目されているという話題とあわせて紹介しました。ただ、元にしたのは中国メディアの記事で、出典を示さず、確かめられない数字も含んでいました。この記事は2026年10月に一次資料で確かめ直し、その後の動きを加えたものです。

ダボスでマスク氏が語ったこと

業界誌pv magazineが伝えた対談の書き起こしによると、マスク氏の主張は次のようなものでした。

  • 宇宙では昼夜も季節も天気もなく、大気で弱まることもないため、「同じ太陽電池パネルでも、地上の5倍、あるいはそれ以上のエネルギーを生む」
  • 宇宙は日陰ではとても冷たいので、「パネルを太陽に向け、放熱板(ラジエーター)を太陽と反対側に向ければ、とても効率のよい冷却になる」
  • その結果、「AIを置くのに最もコストが安い場所は宇宙になる。それは2〜3年以内、遅くとも3年で実現する」

マスク氏は同じ対談で、2026年中に大型ロケット「Starship」の完全な再使用を実証したいとも話しています。打ち上げ費用が下がることが、構想全体の前提になっています。

宇宙のデータセンターでの電力と熱の流れの図。太陽光を太陽電池が電力に変え、AIの計算機が使う。計算機から出た熱は放熱板に運ばれ、真空では空気で冷やせないため、放熱板から放射で宇宙へ捨てるしかない。
マスク氏がダボスで説明した「太陽に向けたパネルと、反対側に向けた放熱板」の考え方を図にしたもの。放熱板の大きさや重さが、計画の課題の一つになるModern-G作図

FCCへの申請:最大100万基の衛星

FCCの宇宙局が2026年2月4日に出した公告(DA 26-113)によると、SpaceXの子会社は1月30日、「SpaceX Orbital Data Center system」の名で、最大100万基の非静止衛星を打ち上げて運用する許可を申請しました。

項目申請の内容(FCCの公告による)
衛星の数最大100万基
高度500〜2,000km(各軌道の層は最大50kmの幅)
軌道傾斜角30度と太陽同期軌道
通信衛星間の光通信でStarlinkの網とつなぐ
求めた特例審査の順番、配備の期限、保証金などの規則の免除

申請書は、この計画を「太陽のエネルギーをすべて使える『カルダシェフ・スケールII』の文明への第一歩」と表現しています。FCCは申請を「受理(accepted for filing)」して意見募集を始めましたが、これは審査の対象として受け付けたという意味で、許可とは別の手続きです。

宇宙の太陽電池とペロブスカイト

旧記事の後半は、宇宙用の太陽電池の話でした。いま宇宙で主に使われているのは、ガリウムヒ素などの化合物を何層も重ねた高効率の太陽電池です。USGSの2026年版の資料も、ゲルマニウムの用途として「宇宙用の多接合太陽電池の基板」を挙げています。

一方、ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト型と呼ばれる結晶構造をもつ材料で作る太陽電池です。材料が安く、薄く軽く作れることから、地上でも宇宙でも研究が進んでいます。

米国立研究所NLR(旧NREL)の研究用セルの記録表(2026年10月29日に確認)では、ペロブスカイト単体の最高効率は28.0%(海南大学、約0.05cm²、中国の計量機関NPVMが測定)、シリコンと重ねたタンデム型は35.2%(LONGi、約1cm²、欧州委員会の研究所JRC-ESTIが測定)です。記録表の日付はどちらも2026年2月です。

いずれも研究室の小さなセルの記録で、量産品の効率ではありません。宇宙向けについては、2021年の学術誌Advanced Materialsの総説が、放射線への強さを利点に挙げつつ、宇宙用の研究は「まだごく初期の段階」と書いています。

旧記事は、真空では水も酸素もないのでペロブスカイトの弱点が消え、劣化の周期が衛星の寿命にちょうど合う、とも書いていました。前半は研究者が期待する点として語られていますが、後半を裏づける資料は見当たらず、言い切れる段階ではありません。

「中国の太陽光企業と接触」の報道

旧記事は、SpaceXが中国の太陽光発電企業と接触しているという情報にも触れていました。2月初めに中国メディアがこの話を伝えると関連銘柄が上がりましたが、中国の経済メディア第一財経によると、晶科能源(Jinko Solar)は2月4日、マスク氏のチームとの協業も契約も受注もないと発表し、ほかの数社も同様の説明をしています。

旧記事が紹介した北京の新興企業と創業者の発言は、一次資料を確認できなかったため、この記事では扱いません。

その後の動き(2026年10月時点)

時期できごと
2026年2月2日SpaceXがxAI(対話AI「Grok」の開発元)を買収したと発表。宇宙でのAI計算を理由の一つに挙げた
2026年2月4日FCCの宇宙局が申請を受理(accepted for filing)し、意見募集を開始(意見・却下の申し立ての締め切りは3月6日)。許可ではない
2026年3月6日AmazonのAmazon Leoが、計画は「ごく大まかな輪郭」しか示していないとして、申請の却下をFCCに求めた
2026年4月ロイターによると、SpaceXが非公開で提出した上場申請書は、軌道上のAI計算について「技術的に複雑で実証されていない技術を含み、商業的に成り立たない可能性がある」とリスクを記していた
2026年6月12日SpaceXが米ナスダックに上場。公開価格は135ドル、調達額は約750億ドルで、報道によれば史上最大の新規上場
2026年8月24日NVIDIAが、「SpaceXAI」が同社の計算基盤を使った第1世代の「Starmind」AI衛星を計画していると発表
2026年10月時点FCCが申請を許可したという発表は見当たらない

ほかの企業も同じ方向を探っています。Googleは2025年11月4日に研究計画「Project Suncatcher」を公表し、適した軌道なら太陽電池は地上の最大8倍の電力を生むとしたうえで、熱の管理や地上との高速通信を「大きな技術的課題」に挙げました。衛星会社Planetと組み、2027年初めまでに試験衛星2基を打ち上げる予定です。

この構想をどう読むか

宇宙の太陽光が地上より安定していることは、マスク氏もGoogleも一致しています。違いが出るのは、その先の課題の重さです。放熱板の大きさ、打ち上げの費用、故障した計算機の交換、衛星の数が増えることへの天文学者などの懸念は、どれもまだ答えが出ていません。

編集部としては、2026年2月の時点で「2〜3年以内」とされた見通しを、FCCの判断、Starshipの再使用の実績、最初の試験衛星の結果という3つの節目で確かめていくのが現実的だと考えます。ペロブスカイトも、研究室の記録と宇宙での長期の実証は別の話として見ておくのがよさそうです。

AIの計算を支える部材の話はAI半導体のガラス繊維不足の記事で取り上げています。AI企業の収益化をめぐってはChatGPTの広告の記事、同じ時期に話題になったAIエージェントのサービスは「AIが人間を雇う」サイトの記事もあわせてどうぞ。

Sources

  1. Euronews「Elon Musk predicts robot-majority future in first Davos appearance」(2026-01-22、対談の日付) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  2. pv magazine「Musk at WEF: Solar space-based AI data centers possible in two to three years」(2026-01-26) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  3. FCC Space Bureau「Space Bureau Accepts for Filing SpaceX's Application for Orbital Data Centers」(DA 26-113、2026-02-04) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  4. Scientific American「Elon Musk fuses SpaceX with xAI」(2026-02-03) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  5. Yicai Global「Chinese Solar Stocks Plunge as Firms Deny Musk Space Project Links」(2026-02-05) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  6. The Register「Amazon to FCC: bin SpaceX's 1M satellite datacenter dream」(2026-03-09) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  7. The Next Web「SpaceX's IPO filing says its orbital data centres may never work. Three months ago, Musk called them a no-brainer.」(2026-04-22) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  8. Gizmodo「SpaceX Stock Opens at $150 After Biggest IPO in History」(2026-06-12) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  9. IPOScoop「The IPO Buzz: SpaceX (SPCX) Climbs 19 Percent in NASDAQ Debut After Record IPO」(2026-06-12) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  10. NVIDIA「SpaceXAI Adopts NVIDIA Vera CPU to Accelerate Agentic AI at Massive Scale」(2026-08-24) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  11. Google Research「Exploring a space-based, scalable AI infrastructure system design」(2025-11-04) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  12. U.S. Geological Survey「Germanium」(Mineral Commodity Summaries 2026) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  13. National Laboratory of the Rockies「Best Research-Cell Efficiency Chart」 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  14. Tu, Y. ほか「Perovskite Solar Cells for Space Applications: Progress and Challenges」(Advanced Materials、2021) (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)

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