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AI半導体を支える「Tガラス」とは:2026年春の供給不足の報道と、日東紡の増産のその後

髪の毛より細いガラス繊維の布が、AI半導体の供給の行方を左右している。2026年3月に伝えたこの話を、日東紡の公式資料と報道で確かめ直し、材料の役割や増産の時期をめぐる誤りを正しました。

Modern-G 編集部更新 約7分で読めます
半透明に光るガラス繊維の糸が斜めに交差して織られた布を間近から見たイラストで、その上に黒い正方形の半導体チップが影を落として載っている
イラスト:Modern-G

2026年初め、AI半導体の生産を支える目立たない材料が足りなくなっていると報じられました。日東紡(日東紡績)がほぼ1社で供給する「Tガラス」というガラス繊維で、NVIDIAなどのAI向けの需要に押され、Appleまで調達に苦労しているという内容です。Modern-Gも3月4日にこの話を取り上げました。

2026年10月29日に日東紡の公式資料と報道を確かめ直すと、旧記事には材料の役割の取り違えや、出典の見つからない数字・発言が含まれていました。この記事では、Tガラスが何をする材料なのかを整理し直し、3月以降の決算や増産計画、代わりの供給元の動きを追います。

Tガラスとは何をする材料か

日東紡の製品ページによると、Tガラスは一般的なEガラスより二酸化ケイ素や酸化アルミニウムの割合を高めたガラスです。熱による伸び(熱膨張係数)は2.8×10⁻⁶/℃で、Eガラスの5.6の半分ほど(塊状のガラスでの実測値の一例で、規格値ではないと同社は注記)。引っ張りに対する硬さ(弾性率)も86GPaとEガラスの75GPaより高く、同社はこの「低熱膨張特性及び高引張り弾性」を生かして高性能の電子材料に使われていると説明しています。

使われる場所は、チップを載せて外の回路とつなぐ半導体パッケージ基板です。日東紡は電子材料の事業ページで、Tガラスを「高密度パッケージ基板に不可欠」とし、AI半導体や通信用のASIC、高機能CPUのパッケージ基板の用途を挙げています。ガラスを細い糸にして布に織り、樹脂と組み合わせて基板の層にします。

半導体パッケージ基板の断面の模式図。上にAI半導体のチップが並ぶはんだの粒で載り、その下の基板は配線の層、ガラス布と樹脂の層、配線の層からなる。下には熱膨張係数の比較があり、Tガラスは2.8、Eガラスは5.6(×10⁻⁶/℃)。熱で伸びにくいほど反りにくい。
Tガラスの布が使われる場所(模式図)。熱膨張係数は日東紡の製品ページの塊状ガラスの実測値の一例(規格値ではない)Modern-G作図

大きなAI半導体は動作中に熱くなり、チップと基板の伸び方が違うと基板が反って、細かい接続が傷みます。基板の芯になる布が熱で伸びにくいほど、この反りを抑えられます。

旧記事は、Tガラスの役割を「極めて高い周波数でも信号の安定性を保つ」ことだと説明していました。日東紡の2026年8月の決算資料は、CPU・GPU・ASIC向けのパッケージ基板には「低熱膨張」のTガラス、サーバーやスイッチの基板には「低誘電正接」のNE・NERガラスという分け方をしています。高周波での信号の損失を減らすのは、主に後者の役割です。

2026年3月の時点で何が報じられていたか

旧記事のもとになった報道の流れは、おおむね次のとおりです。

  • 2026年1月、日経アジアが、Appleが高品位のガラス布の調達に苦労していると報道。MacRumors(1月14日)の要約によると、最先端のガラス布は「ほぼ1社」、日東紡が生産しており、NVIDIA、Google、Amazon、AMD、Qualcommなども同じ供給を求めている。Appleは2025年秋に社員を日本に派遣し、日本政府にも支援を求めたとされる
  • 2026年2月9日、中国の財聯社が、日東紡は年後半まで大幅な増産は見込めないこと、2025年比で3倍の能力を2028年までに目指すこと、値上げの計画とCitiのアナリストの「25%以上」の見通しを伝えた

旧記事は財聯社の記事と構成がよく似ていますが、旧記事にあった「1kgあたり80〜100ドルの歴史的高値」「投資銀行の分析で他社は二桁%の不足」という数字や、覆銅板業界の関係者、「戦争前の戦争」と語った専門家の発言は、この記事にも、日東紡の資料にも、ほかの報道にも見つかりませんでした。確認できないため削除しています。

旧記事の「日東紡が今後数か月の間、急激な増産を行う予定がないと明言」も、報道の中身とは違います。財聯社が伝えたのは「年後半まで大幅な増産は見込めない」という見通しで、日東紡自身は増産を急ぐ立場でした。また旧記事は創立を1918年としていましたが、日東紡の社史では1918年は前身の一つの福島精練製糸の設立で、日東紡績の創立は1923年4月1日です。

その後の動き(2026年10月時点)

時期出来事
2026年5月12日日東紡が2026年3月期の決算を発表。半導体パッケージ基板向けの特殊ガラスが伸び、電子材料事業の営業利益は前期比39.7%増
2026年7月3日中国の光遠新材がAI半導体向けのTガラスの出荷を始めたと日経が報道(TrendForce経由)
2026年8月5日日東紡が4〜6月期の決算と通期予想の上方修正を発表。決算資料で特殊ガラスの増産の時期を示す
2026年8月6日日東紡はTガラスの追加値上げを予定していないとTrendForceが報道

5月の決算では、2026年3月期の売上高が1,182億円(前期比8.4%増)、営業利益が208億円(同26.6%増)でした。電子材料事業は売上高493億円、営業利益194億円です。中期経営計画では4年間の設備投資を累計約1,200億円としています。

8月の4〜6月期の決算短信によると、電子材料事業は売上高146億円(前年同期比29.5%増)、営業利益70億円(同70.0%増)で、半導体パッケージ基板向けの低熱膨張の特殊ガラスの販売が増え、「価格改定の影響」もあったとしています。2027年3月期の通期予想は、売上高1,410億円、営業利益300億円、純利益200億円に引き上げました。純利益は前期比52.1%減の予想ですが、前期は約342億円の固定資産売却益を特別利益に計上しており、その反動とみられます。

増産の段取りは、決算説明資料の表に出ています。台湾の拠点でTガラスの溶解炉を2027年3月期に新設し、福島の拠点ではTガラスの布の量産の処理工程を2028年3月期に、台湾の子会社Baotek Industrial MaterialsでもTガラスの布の量産を2028年3月期に始める計画です。布を織る工程では、台湾の南亜プラスチックとの協業も示されています。

TrendForce(8月6日)が伝えた日経の報道によると、日東紡は2029年3月期の生産能力を2026年3月期の3倍にする見込みです。それでも林寿信社長は需要が強く「この増強でも足りない」と述べたといいます。同じ報道は、プリント基板メーカーの幹部の話として、NVIDIA、Microsoft、Google、Amazonが日東紡の今年の高品位のガラス布の能力の大半をすでに押さえたとしています。旧記事の「NVIDIAが中長期契約で大部分を確保」とは、相手も契約の形も違います。

日東紡のTガラス増産計画の年表。2027年3月期に台湾の拠点でTガラスの溶解炉を新設。2028年3月期に福島の拠点でTガラスの布の量産の処理工程、同じく2028年3月期に台湾の子会社BaotekでTガラスの布の量産を開始。2029年3月期に生産能力を2026年3月期の3倍にする見込み(日経の報道をTrendForceが伝えたもの)。
新しい能力は段階的に加わり、3倍は2029年3月期Modern-G作図

価格については、日東紡は予定していたTガラスの値上げをおおむね終え、今のところ追加の値上げは予定していないとTrendForceは伝えています。ただし、中東情勢でエネルギーの費用が高止まりすれば見直す可能性もあるとしています。

代わりの供給元も動き始めました。TrendForce(7月3日)が伝えた日経の報道によると、中国のガラス布メーカーの光遠新材がAI半導体のパッケージ向けのTガラスの出荷を始め、顧客にはパナソニック ホールディングスやレゾナック・ホールディングスが含まれます。MacRumorsによれば、Appleも中国のメーカーを含む代わりの調達先の認定を進めていますが、1月時点で進みは遅いとされていました。

不足はいつ和らぐのか

ここからは編集部の見方です。公式資料と報道を合わせると、新しい能力は2026年度の後半から2027年度にかけて段階的に加わり、3倍の目標は2029年3月期のことです。その間にAI向けの需要がどこまで伸びるかによって、不足が和らぐ時期は変わります。社長自身が「足りない」と言う以上、2027年までは逼迫が続くと見ておくのが無難でしょう。

一方で、旧記事が描いた「日本企業の慎重さが世界のボトルネックになっている」という構図は、公式資料からは読み取れません。日東紡は追加の値上げを予定せず、4年で約1,200億円の設備投資の計画のもとで能力の拡大を進めています。中国メーカーの参入が品質面でどこまで追いつくかが、次の焦点になりそうです。

NVIDIAの研究の話題はFast-dLLMの記事でも取り上げています。部材不足の影響が取り沙汰される折りたたみiPhoneは2026年9月のApple発表会のまとめも参考になります。

Sources

  1. 日東紡「Tガラス」 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  2. 日東紡「NEガラス」 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  3. 日東紡「電子材料事業」 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  4. 日東紡「100年のあゆみ」 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  5. 日東紡「中期経営計画」 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  6. 日東紡「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」2026-05-12 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  7. 日東紡「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」2026-08-05 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  8. Nittobo「Nittobo Group Financial Results for the First Quarter of FY2026」2026-08-05 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  9. MacRumors「Apple Struggling With Key Material Shortage as AI Chips Drain Supply」2026-01-14 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  10. 財聯社「连苹果都急了!T-glass产能紧张 一片“玻璃布”正加剧全球芯荒?」2026-02-09 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  11. TrendForce「[News] China's Chip Material Suppliers Challenge Japanese Dominance; Guangyuan Invests US$1B in T-Glass」2026-07-03 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)
  12. TrendForce「[News] Nittobo Raises FY2027 Net Profit Forecast by JPY 3B; No Further T-Glass Price Hikes Planned」2026-08-06 (2026-10-29確認)(新しいタブで開きます)

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