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Featureシリーズ: Deep Dive

スマホの電池はなぜ2〜3年で弱るのか:リチウムイオン電池が“老いる”仕組み

スマホの電池は、なぜ年を追うごとに持たなくなるのか。手がかりは、負極に育つ薄い膜と、行き場を失うリチウムにあります。

Modern-G 編集部約6分で読めます

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スマホの電池はなぜ2〜3年で弱るのか:リチウムイオン電池が“老いる”仕組み

積み重なった薄い膜の層の上から、小さな粒が一つずつ抜け落ちていく電池の輪郭、抽象的なイラスト
イラスト:Modern-G

リチウムイオン電池は、工場を出る前にすでに充電を経験しています。「化成(フォーメーション)」と呼ばれる製造工程で、小さな電流でゆっくりと充放電し、負極の表面にSEI(固体電解質界面)という薄い膜を育てるためです。英インペリアル・カレッジ・ロンドンなどの研究者による2021年の総説(Edge et al.)によると、この最初のサイクルで容量はおよそ1割減ります。

だからといって、新品のスマートフォンが買ったときから1割損をしているわけではありません。化成は製造工程の一部で、電池の容量はこの工程を終えてから測られます。箱を開けたときの「100%」は、この1割を払い終えたあとの数字です。

膜は悪者ではありません。電解液がそれ以上分解しないよう負極を守る、電池のかさぶたのような存在です。ただ、このかさぶたは出荷後も、電池が古くなるにつれて厚くなっていきます。膜の材料になったリチウムは、二度と電気を運べません。iPhoneの「最大容量」の数字が少しずつ下がっていく背景には、この「取られたリチウム」と、電極そのものの傷みがあります。

膜は、使っていない夜にも育つ

充電すると、リチウムは正極から負極の黒鉛(グラファイト)の層のすき間へ移り、使うと戻ります。総説によると、SEIは高温や大きな電流で速く育つだけでなく、充電状態が高いまま休ませておくだけでも、ゆっくり育ちます。研究者が「カレンダー劣化」と呼ぶ、時間による老化です。

なぜ満充電が膜を育てるのか。独ミュンヘン工科大学のKeilらは2016年、3種類の市販セルを0〜100%の16段階の充電状態にして、25℃、40℃、50℃で9〜10か月保管しました。容量の減り方を主に左右したのは負極でした。黒鉛にリチウムが詰め込まれるほど負極の電位が下がり、電解液が分解しやすくなって膜が育つ。論文は、黒鉛が5割以上リチウムで満たされた状態では、使えるリチウムの減少が加速すると結論づけています。高い電圧で正極側が傷む反応は、この試験ではおおむね脇役でした。

温度は、同じ膜づくりの速度を上げます。総説は、使う側から見たストレス要因として温度、充電状態、電流の大きさを挙げ、一般には温度が最も重要で、標準的な25℃から外れると劣化が加速しうるとしています。ただし、どれがどれだけ効くかは電池の化学系や形状で変わる、とも断っています。

金属になるリチウム、割れる粒子

膜のほかにも、リチウムを失う道があります。急いで充電すると、リチウムが黒鉛の中に入りきれず、表面に金属として析出することがあります。総説によると、氷点下では中程度の速さの充電でも起こりえます。析出したリチウムの一部は膜に包まれて孤立し、「デッドリチウム」として戻れなくなります。樹枝状に伸びれば、正極と負極を仕切るセパレーターを突き破り、内部短絡を起こすおそれもあります。

電極の粒子も傷みます。粒子はリチウムを出し入れするたびに膨らみ、縮みます。総説の表では、その体積変化は黒鉛で約12%、次世代の負極材料として研究されるシリコンでは300%を超えます。この伸び縮みが粒子にひびを入れ、ひびで新しく現れた表面に、また膜が育ちます。大きな電流や深い放電は、割れを悪化させる条件として挙げられています。三つの劣化は、互いを呼び込み合いながら進みます。

リチウムイオン電池の断面の模式図。左に黒鉛の負極、右に正極があり、間をセパレーターが仕切る。負極の粒子のまわりでSEI膜が厚くなってリチウムを閉じ込める様子、負極の表面に金属リチウムが析出する様子、膨張と収縮で粒子にひびが入る様子を、番号つきで示している。
電池の中で起きる主な劣化(模式図。Edge et al. 2021 の分類をもとに単純化)Modern-G作図

減るのは容量だけではない

膜が厚くなり、ひびで粒子どうしのつながりが途切れると、電池の内部抵抗(インピーダンス)が上がります。Appleは、化学的経年劣化が進んだ電池ではインピーダンスが増える傾向があり、残量が少ないときや低温のときには一時的にさらに上がると説明しています。必要な瞬間に電力を出しきれないと、iPhoneは突然シャットダウンすることがあり、一部の機種ではそれを防ぐためにiOSがピーク性能を抑えます。古い電池が「持たない」だけでなく「力が出ない」のは、このためです。

劣化を早める条件と仕組みを結んだ図。高温と満充電での放置はSEI膜の成長に、低温での急速充電はリチウムの析出に、大きな電流と深い放電は粒子の割れにつながり、どれも使えるリチウムの減少と内部抵抗の増加に行き着く。線の太さは根拠の厚さを表す。
どの条件が、どの劣化につながるか(線の太さは、根拠の厚さについての編集部の評価)Modern-G作図

「2〜3年」の正体は、回数より時間かもしれない

Appleは、iPhone 14以前の電池は理想的な条件下でフル充電サイクルを500回繰り返した後も、本来の容量の80%を維持するよう設計されていると説明しています。iPhone 15モデルでは1,000回です。Google Pixelは、Pixel 3〜8 ProとPixel Foldで約800回、Pixel 8a以降で約1,000回まで、最大80%の容量を維持するとしています。

1日に1サイクル分を使い切っても、500回までは1年半弱です。半分なら3年近くかかります。それでも2〜3年で衰えを感じやすいのは、回数に時間の老化が重なるからだと考えられます。夜通し100%のまま充電器につながれ、日中は体温や日差しで温まるスマートフォンの暮らしは、Keilらの実験で劣化が速かった「高い充電状態と高い温度」の組み合わせによく似ています。電池の交換か買い替えかを考える段階なら、スマホの寿命とOSサポートの記事が判断の材料になります。

劣化は一直線とも限りません。2022年の総説(Attia et al.)は、しばらく穏やかに劣化した電池が急に容量を落とす「ニー(膝)」という現象を取り上げ、リチウムの析出や電解液の枯渇など六つの経路から整理しています。

メーカーの設計に書き込まれた化学

Pixelの「バッテリー ヘルス アシスタント」は、200回目から1,000回目の充電サイクルにかけて、電池の最大電圧を段階的に調整します(Pixel 9a以降は常にオン)。Googleは、使用年数とともに駆動時間が少しずつ短くなるとも書いており、上限を抑える方向の調整と考えるのが自然です。Appleの「バッテリー充電の最適化」は、条件がそろうと80%まで充電したところでその先を遅らせ、フル充電のまま過ごす時間を短くします。

満充電に近いほど負極の電位が下がって膜が育つ、というKeilらの結果と並べると、どちらも負極を「満タン」に置く時間を削る設計だと読めます。もっとも、両社の説明は「劣化を安定させる」「劣化を防ぐ」までで、化学的な理由には触れていません。

わかっていないこと

ここで引いた保存試験は、円筒形の市販セル(18650型)によるもので、スマートフォンの電池そのものではありません。スマホの電池がどの材料をどんな比率で使い、どう充電を制御しているかは、ほとんど公開されていません。電池交換が難しいワイヤレスイヤホンなどの小さな電池も事情は同じです。

Keilらの結果には、もう一つ含みがあります。容量の減り方は充電状態に比例せず、20〜30%を超える幅の「段差」状に変わりました。段差の位置は正極と負極の容量のバランスで決まります。だとすれば、満充電を避けることの効き目も電池ごとに違うはずですが、メーカーはその大きさを公表していません。

同じ設計でも寿命はばらつきます。総説は、同じ条件で使った24個の同型セルの寿命がそろわず、原因はまだ議論中だという研究を紹介しています。メーカーが「80%を維持する」と書く設計値の内側には、こうした電池ごとの差と、まだ説明しきれない化学が残っています。

Sources

  1. Apple サポート「iPhoneのバッテリーとパフォーマンス」(2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
  2. Apple サポート「iPhoneの充電上限とバッテリー充電の最適化について」(2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
  3. Google Pixel ヘルプ「Google Pixel のバッテリーについて」(2026-10-28確認)(新しいタブで開きます)
  4. Edge, J. S. et al. "Lithium ion battery degradation: what you need to know", Phys. Chem. Chem. Phys. 23, 8200–8221 (2021)(新しいタブで開きます)
  5. 同論文の公開PDF(ゲルフ大学リポジトリ、出版社版、CC BY 3.0)(新しいタブで開きます)
  6. Klick, S. et al. "Benefits and drawbacks of high-temperature formation cycling for lithium-ion batteries", EES Batteries (2026), CC BY 3.0(KIT公開版)(新しいタブで開きます)
  7. Witt, D. et al. "Origin of Performance Improvements in Lithium-Ion Cells after Fast Formation", Batteries & Supercaps (2024)(KIT公開版)(新しいタブで開きます)
  8. Keil, P. et al. "Calendar Aging of Lithium-Ion Batteries: I. Impact of the Graphite Anode on Capacity Fade", J. Electrochem. Soc. 163, A1872 (2016)(新しいタブで開きます)
  9. Attia, P. M. et al. "Review—'Knees' in Lithium-Ion Battery Aging Trajectories", J. Electrochem. Soc. 169, 060517 (2022)(新しいタブで開きます)

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