高齢化が進む今、脳の健康管理は病院に行く特別なイベントではなく、日常の習慣として続けられるものであるべき。そんな新しい発想から誕生したのが、東京大学松尾研究室発のスタートアップ「IGSA」が開発した脳健康管理サービス「はなしてね」だ。2025年8月1日より早期公開版が無料で提供され、50〜70歳を対象にした革新的な認知機能チェックとして注目を集めている。
たった2分、AIとの自然な会話で脳の状態をチェック
従来の認知機能検査といえば、計算問題や記憶テストなど、緊張感やストレスを伴うものが多かった。しかし「はなしてね」は、スマホを手にLINE上でAIと話すだけという気軽さが特徴だ。
ユーザーは公式アカウントを友だち追加し、システムの案内に沿って「子どもの頃の思い出」や「最近あった出来事」といったテーマについて自由に2分間話す。AIは会話データから声の速さや間の取り方、抑揚のリズムなどの音響的特徴と、語彙や文法の使い方、話の内容といった言語的特徴を解析。結果はA〜Dの4段階評価でLINEに返ってくる。
15分の追加検査で生活習慣改善まで導く
初回チェックの結果、より詳しい分析が必要と判断された場合は、15分間の詳細検査を受けられる。この際、AIは分析結果をもとに食事や運動、日常的な脳の使い方に関する改善アドバイスを提示する。
さらに、「はなしてね」では地域で実施される健脳体操や健康イベントを案内し、そのままオンラインで申し込みまでできる。つまり、診断から改善、地域活動の参加までをワンストップで実現してくれるのだ。
心理的ハードルを極限まで低く
このサービスの根底には、「脳の健康チェックを日常的な習慣に」という思想がある。CEO松島創一郎氏は、「脳の健康チェックを、体重計に乗るように簡単に」と語る。
診断テスト特有の緊張感や「試される感覚」を避け、日常会話をするような感覚で自分の状態を知る。このアプローチが、多くの人にとって継続しやすい仕組みとなっている。
料金と今後の展望
早期公開版は約1か月間無料で提供され、その間に利用者からのフィードバックを集めて改善が進められる。正式版は年額1,500円(現行レートで約73元)で、年間最大3回まで検査可能だ。
IGSAは将来的に、地方自治体が主導する介護予防プログラムへの導入も計画している。これが実現すれば、地域レベルでの高齢者支援や健康データの活用が進み、予防医療の基盤強化につながるだろう。
“予防”を日常に取り戻すAIの力
「はなしてね」の魅力は、軽度認知障害(MCI)などの兆候を早期に察知できる点にある。認知機能の低下は、発見が早ければ早いほど生活習慣の改善によって進行を抑えられる可能性が高い。
AIによる定期的なモニタリングが普及すれば、家族や地域が高齢者の変化に早く気づき、適切なサポートにつなげられる。それは医療だけでなく、生活全体を支える仕組みになるはずだ。
AIが会話を通じて人の脳の健康を見守り、改善までサポートする――それは、かつてSFの世界の話だったかもしれない。しかし「はなしてね」が登場した今、それはLINEの画面から始められる日常の習慣になった。
脳の健康を守ることは、もう特別なことではない。もっと気軽に、もっと自然に。その新しい文化を、「はなしてね」は静かに、しかし確実に広げていく。