これはタトゥーショップでも、シールでもありません。手のひらサイズのこの機械は、「Prinker」。肌の上を軽く滑らせるだけで、わずか数秒後にはカラフルなタトゥーが腕に現れます。

最大の特徴をひと言で表すなら、「数秒でタトゥーをプリントできる」こと。初めてデモ動画を見た人の多くは、「これってただのおもちゃなのでは?」と思うかもしれません。しかしPrinkerはその後、実際に製品化され、CESで複数のイノベーションアワードを受賞。さらにロレアルからの出資・協業にもつながりました。

 

実は「肌に印刷するプリンター」

Prinkerを初めて見た人の多くは、タトゥーマシンのようなものを想像するかもしれません。しかし、その仕組みはまったく異なります。本物のタトゥーは、針を使って色素を皮膚の中に入れますが、Prinkerはむしろ小型のインクジェットプリンターに近い存在です。

使い方は、まず肌に専用のプライマーを吹きかけ、その上から本体を軽く滑らせるだけ。わずか数秒で、デザインが肌の表面にプリントされます。針を使わず、肌を傷つけることもありません。

プリントしたデザインは通常、約1〜3日間持続し、ある程度の耐水性も備えています。消したくなった場合は、石けんやクレンジング製品などで比較的簡単に洗い落とすことができます。使用されているのは化粧品グレードのインクで、関連製品は米国のFDA VCRPへの化粧品登録、およびEUのCPNP登録を完了しています。

面白いのは、好きなものを何でもプリントできること

従来のタトゥーにとって最大のハードルは、一度入れてしまうと簡単には元に戻せないことです。Prinkerは、そこを真逆の発想で変えました。

今日は蝶をプリントし、明日はQRコードに変更。週末にスポーツ観戦へ行くなら、応援するチームのロゴに変えることもできます。専用アプリには10万点以上のデザインが用意されているほか、自分で用意した画像や文字、ロゴなどをアップロードすることも可能です。

そして多くのブランドが、この仕組みはタトゥー以上にイベントとの相性がいいことに気づきました。コンサート、eスポーツ大会、ブランドのポップアップイベント、テーマパークなど、活用できる場面はさまざま。数秒待つだけで、その場だけのオリジナルデザインが完成します。列に並ぶ人たちの目的は、必ずしもタトゥーそのものではありません。むしろ、「自分の肌にプリントする」という体験を楽しみにしているのです。

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本当に魅力的なのは、機械そのものではない

もちろん、Prinkerが販売しているのは一台のデバイスです。しかし、人を惹きつけている本当の理由は、本体そのものではありません。

それは、タトゥーが「やり直せるもの」になったことです。

これまでタトゥーを入れたいと思っても、「似合わなかったらどうしよう」「いつか飽きるかもしれない」「簡単には消せない」と悩み、なかなか決断できない人も少なくありませんでした。Prinkerは、そんな心理的なハードルを大きく下げています。

今日気に入ったデザインがあれば、その場でプリントする。数日後に別のものに変えたくなれば、洗い落としてまた新しくプリントする。これまで“一度きりの決断”だったタトゥーを、気分に合わせて自由に変えられるものへと変えたのです。

 

その技術は、やがて美容分野へ

小型プリント技術が進化するにつれ、Prinkerは「プリントできるのはタトゥーだけではない」ことに気づきます。そしてロレアルとの協業によって誕生したのが、「Brow Magic」です。

Prinkerと同様のマイクロプリント技術を活用し、一人ひとりに合わせた眉メイクを素早くプリントするデバイスとしてCESで初披露されました。この製品をきっかけに、Prinkerの本当の価値は単なる一時的なタトゥープリンターではなく、人体の表面へ直接、精密にプリントできる技術そのものなのではないかと、多くの人が気づき始めました。

 

実際に買う人はいるのか?

現在のPrinkerは、もはや一部のガジェット好きだけが楽しむ製品ではありません。個人ユーザーだけでなく、ビジネス用途でも幅広く活用されています。

イベント会社では会場でのインタラクティブな体験づくりに使われ、ブランドは自社ロゴを来場者の腕にプリント。ショッピングモールやテーマパーク、展示会などでも、体験型コンテンツのひとつとして導入されています。

また、針を使わず、数日後には洗い落とせることから、子どもにキャラクターなどのデザインをプリントして楽しむ家庭もあります。本物のタトゥーとは違い、気軽に楽しめるところが大きな魅力です。

プリンターは、ついに「人」をプリントするようになった

これまでプリンターは、紙を印刷し、写真をプリントし、服に柄を描き、さらには食品までプリントしてきました。そしてPrinkerは、そのプリント対象をついに「人」へと広げました。

タトゥーというものを、まるで写真をプリントするように手軽な体験へと変えたのです。

かつて、プリンターが印刷していたのは紙でした。
そして今、プリンターは人の肌までプリントするようになったのです。