生成AIがもはや生活のあらゆる場面に入り込みつつある今、その存在を「どう扱うべきか」が新たな社会課題になっている。米国の上院議員たちがこの秋提出した法案は、まさにこの問題の核心を突くものだ。AIチャットボットに対し、未成年者の利用を禁止し、年齢確認を義務付けるという内容である。テクノロジーの急速な進化に立ち向かう政治の動きとして、注目が集まっている。

法案を提出したのは、共和党のジョシュ・ホーリー上院議員と民主党のリチャード・ブルメンタール上院議員。超党派によるこの提案は「GUARD法(Generative AI Use and Regulation for the Defense of Children Act)」と名付けられ、AIチャットボットによる未成年者への影響を防ぐことを目的としている。AI技術が進歩する中で、特に若年層がAIとどのように関わるべきかが問われているのだ。

ホーリー議員は声明で、「AIチャットボットは、子どもたちを心理的に操作したり、性的なコンテンツにさらす可能性がある」と強調している。彼は特に、人気の生成AIサービスがユーザーと感情的なつながりを築くよう設計されている点に懸念を示した。たとえば、一部のAIアプリは“恋人風チャット”や“メンタルサポート”を提供しているが、そこに倫理的・心理的リスクが潜んでいると指摘されている。NBC Newsの報道によれば、すでにいくつかのAIサービスでは未成年ユーザーが性的な会話を体験した事例があり、社会問題として浮上している。

このGUARD法案の中心には、AIチャットボットに対する厳格な年齢確認システムの導入がある。企業は、チャットボットを利用する際にユーザーの年齢を確認し、13歳未満の子どものアクセスを禁止することが求められる。また、18歳未満の利用者には保護者の同意を必須とする案も含まれている。さらに、AI開発企業には「教育目的での利用か、エンタメか、恋愛・相談的機能か」といった用途の明確化も義務付けられる可能性がある。

AI企業にとっては、これは単なる規制強化にとどまらない。チャットボットがどのようなデータを収集し、どのように応答を設計しているのかという「透明性の確保」を迫られることになるからだ。OpenAIやAnthropic、Googleといった主要AI企業にとっても、この動きは無視できない。すでに彼らは「AIの倫理的利用」や「安全な会話設計」に取り組んでいるが、今回の法案が可決されれば、より明確な法的責任を負うことになるだろう。

一方で、この法案には懸念の声も少なくない。技術業界の専門家の中には、「過剰な規制がイノベーションを妨げる」と警鐘を鳴らす人々もいる。AIチャットボットは教育現場やメンタルヘルス支援にも活用されており、一律の禁止は子どもたちの学びや支援の機会を奪うことになるという主張だ。特に、AIが孤独やストレスを抱える若者の支えになっている側面を無視すべきではない、という意見も根強い。

しかし、議員たちはあくまで「規制ではなく保護」であると強調している。ホーリー議員は、「我々は子どもたちを守るために立ち上がっている。AI企業は利益を追求する前に、倫理的責任を果たすべきだ」と発言。ブルメンタール議員も、「テクノロジーの発展に対して法制度が追いついていない。今こそ、明確なルールを設ける時だ」と述べた。

興味深いのは、この法案がAIチャットボットそのものだけでなく、プラットフォーム全体の責任にも踏み込んでいる点だ。たとえば、AIチャットボットを提供するウェブサイトやアプリが年齢確認を怠った場合、運営企業が罰則を受ける可能性がある。これは、かつてのソーシャルメディア規制の議論と似た構図だ。FacebookやInstagramが未成年の安全対策を強化したのと同様、AIにも「社会的責任」を問う流れが押し寄せている。

今後、この法案がどこまで実現されるかは未知数だ。AI技術は日進月歩で進化しており、規制の内容もそれに合わせて常に更新される必要がある。だが、今回の議員たちの動きは確実に、AIと社会の新しい関係性を問う転換点になるだろう。AIが人間の知性を模倣する時代に、私たちはどのように“信頼”と“責任”を築くのか。その議論の出発点に、GUARD法案は立っている。

テクノロジーの未来を形づくるのは、常に人間の選択である。便利さと危険性、その両方を抱えたAIの時代に、社会がどのような倫理観を持つのか。今回の法案は、その問いに対する最初の明確な答えの一つなのかもしれない。