YouTube上に出現したあるチャンネルが、世界的に波紋を呼んでいます。その名も「Woman Shot AI」。6月20日に開設されたばかりにもかかわらず、わずか数か月で27本の動画と12,000人近い登録者、17万5,000回以上の視聴数**を記録しました。しかし、その実態は身の毛もよだつものでした。動画はすべて、女性が銃口を突きつけられ、命乞いする様子をリアルに描写し、最終的に射殺されるAI生成コンテンツだったのです。

このチャンネルは、調査報道メディア「404 Media」がYouTubeに問い合わせたのをきっかけにようやく削除されました。しかし、その背後に潜む問題は、削除一つでは到底解決できないほど根深いものです。


このチャンネルに投稿されていた動画は、ほとんどが同じ構成を持っていました。女性が銃を突きつけられ、必死に助けを乞う光景。背景に立つ男は冷酷に引き金を引き、映像はそこで途切れます。対象は現実の人物に似せたものだけでなく、「ララ・クロフト」や「不知火舞」といった有名ゲームキャラクター、日本の女子高生、さらにはウクライナ女性兵士まで含まれていました。極めてリアルなAI生成映像は、まるでスナッフフィルムそのもののようであり、サムネイルに頭部破壊の瞬間が写し出されるケースも確認されています。

さらに衝撃的なのは、チャンネル運営者が視聴者に次の「犠牲者」を投票させていたことです。選択肢には「日本人/中国人」といった人種的ラベルが並び、さらには差別的な言葉も平然と使われていました。これは単なる暴力表現の域を超え、女性蔑視や人種差別的フェティシズムのはけ口として機能していたことを示しています。


AIによる粗悪コンテンツ、いわゆる**「AIスロップ」**は近年、YouTubeをはじめとするプラットフォームで急速に増えています。AIが生成した音楽プレイリストや「退屈な歴史動画」「眠くなる教育風コンテンツ」といった無数の動画が、広告収益を狙って量産されているのです。しかし今回のケースのように、ここまで露骨に暴力的かつグロテスクなAIスロップは前例が少なく、特異かつ危険な事例といえるでしょう。

YouTubeの広報担当者は、このチャンネルが削除された理由について、**利用規約違反、しかも「過去にBANされたアカウントで再開したため」**と説明しています。つまり、運営者は既にブラックリストに入っていたにもかかわらず、別の形で復活していたというのです。


さらに問題の根は深く、制作ツールの存在にも及びます。動画に付された透かしから判明したのは、**Googleの最新AI「Veo 3」**が使われていたことです。このツールは、テキストからリアルな動画を生成できるだけでなく、音声や対話までも自然に作り出す能力を持っています。本来はクリエイティブな用途を想定して設計された技術ですが、そのガードレールを突破するのは意外なほど容易でした。例えば、プロンプトに単純な誤字を入れるだけで制限を回避できるといった抜け道が存在していたのです。

チャンネル運営者は公開投稿で「AIの使用には毎月300ドルかかる。1アカウントで8秒の動画を3回しか生成できないため、10個のアカウントを作った」と語っています。つまり、相当のコストを支払いながらでも、この歪んだ「趣味」を追い続けていたのです。この事実は、技術的規制が十分に機能していないことを如実に物語っています。


今回の事件は、私たちにいくつかの重大な問いを突きつけます。**AIは誰のために存在し、どこまでを許容すべきなのか。プラットフォームはどこまで監視し、規制すべきなのか。そしてユーザーの病的な欲望に対して社会はどう向き合うのか。**AI技術の発展は止められません。しかし、その力をいかに制御し、倫理的に運用するかは、今まさに試されているのです。

YouTubeは削除という対応を取りましたが、それはあくまで事後的な対処にすぎません。次なる「Woman Shot AI」が登場するのを防ぐためには、より強力な検知システムと、プラットフォーム責任の強化が不可欠です。そして同時に、生成AIの開発企業にも、単に「ポリシーがあります」と言うだけでなく、悪用を実際に封じ込める技術的なガードレールの確立が求められます。

AIが生み出す「スロップ」は、退屈なコンテンツから始まり、ついには人間の尊厳を踏みにじる最悪の形態へと進化してしまった。今回のYouTubeチャンネル削除は、一つの終わりではなく、むしろ始まりにすぎないのかもしれません。