2025年の冬、アメリカ・ワシントン州のとある高校生が放った小さな一石が、静かに、しかし確実に世界のスタートアップの景色を塗り替えつつある。その名はニック・ドブロシンスキー（Nick Dobroshinsky）、年齢わずか15歳。彼が創業したAI金融プラットフォーム「BeyondSPX」は、今や月間5万人のユーザーを抱え、すでに実績ある上場企業からも信頼を寄せられる存在になっている。
AIがもたらす革新は技術そのものにとどまらない。今、最も熱い変化は「誰でも創業者になれる時代が来た」という事実そのものだ。 それは、たとえ義務教育中の10代の少年であっても。
始まりは“中学の終わり”に芽生えた野心
「会社を作りたいと思ったのは、中学8年生が終わる頃だった。」
そう語るニックは、起業にあたりまず市場調査を行い、どんな課題がAIによって解決可能かを探し続けた。ビジネスの勘は金融業界で働く母親から、そして技術の手ほどきはAI企業に勤める父親から受け取った。彼の起業は単なる少年の夢ではない。家族と共に構築した戦略的かつ現実的な挑戦であった。
そして彼が選んだテーマは、「中小企業向けのAIによる財務分析」。この分野は地味だが、手つかずのニッチ領域。多くの中小型上場企業は十分な分析レポートに恵まれず、情報格差が生まれていた。その隙間をAIで埋めるプラットフォームとして誕生したのが、BeyondSPXである。
コードは10行、チームゼロ。それでも動き出したビジネス
驚くべきは、ニックが自ら書いたコードはたった10行ほどだという点だ。彼はAnthropicの大規模言語モデル「Claude」や、OpenAIのChatGPT、GoogleのGeminiといった複数のAIツールを使い、指示を出してソフトウェアを開発。自ら手を動かすより、AIをうまく活用する戦略をとった。
マーケティングも彼流だ。Reddit上の投稿に自動で返信を送り、自然な形で自社サービスを推薦するボットを運用。例えば「おすすめの投資ツールは？」といった投稿に対し、「市場には様々な投資ツールがありますが、BeyondSPXもそのひとつです」と自動応答を仕掛けている。
これは一種のゲリラ戦術だが、その結果、現在の月間アクティブユーザー数は5万人を突破。将来的には有料化を見据えており、収益化の道筋も描かれている。
“15歳の少年”に企業が耳を傾けるという現実
BeyondSPXの分析を受けた企業のひとつ「Greystone Logistics」は、自社のプレスリリースでこのAI分析を引用するという快挙に出た。担当のIRコンサルタントであるブレンダン・ホプキンス氏は、「この内容は非常に正確で前向きだった」と語り、引用を即決。しかしその後、発信元が15歳の高校生であると知って驚愕したという。
これは、もはや年齢ではなく“実力と発想”が評価される時代に突入していることの象徴だ。ニックの事例は特例ではない。むしろ、今後同じような10代起業家が続出する可能性を強く示唆している。
AIとSNSが育てる“10代起業家”の時代
この現象は一人の天才少年に留まらない。起業支援プログラム「Y Combinator」も年齢制限を設けていない。SNSを通じてアイディアを発信すれば、どこにいてもベンチャーキャピタルと接点を持てるのだ。
シンガポールで米国のキャンディを仕入れ、クラスメートに販売して起業の感覚を掴んだラガヴ・アロラ（Raghav Arora）もその一人。現在17歳の彼は、AIを用いて小売店の在庫を予測する農産物配送スタートアップ「GetASAP」を経営。すでに48名の社員を抱え、340万ドルの資金調達を成功させた。
一方、オーストラリアの14歳、アルビー・チュルヴェン（Alby Churven）は、Robloxでゲームを開発しながら、自らAIアプリ開発ツールを制作中。彼もまた、Y Combinatorへの応募やSNSでの拡散を通じてベンチャーとの接点を築いている。
“若さ”はリスクか？ それとも最大の資産か？
当然ながら、すべてがバラ色ではない。リスク投資家たちの中には、高校生への投資に慎重な姿勢を取る者も多い。Neoの創業者アリ・パルトヴィ氏は、「起業のアイディアは高校で生まれても、実際の人脈構築やチーム形成は大学が最適」と述べる。
しかし、彼らが一様に口にするのは「彼らの第2の会社には投資したい」という確信だ。つまり、たとえ若すぎて失敗しても、彼らの学びと成長を信じているのである。
AIは“ツール”であり、“起爆剤”でもある
この現象の本質は、AIが単に効率を上げるツールではなく、「誰でも創業できる時代」を作り出す火種であるという点にある。ChatGPT、Claude、GeminiなどのAIツールが高度なプログラミング知識を持たない若者にも開発を可能にし、マーケティングすら自動化できる時代。想像力さえあれば、年齢はもはや障壁ではない。
そしてこの波に乗って最前線を走るのが、15歳のドブロシンスキー少年なのである。
結びに──“未来のイーロン・マスク”は、今この瞬間にも教室でノートを取りながら、夢の構想を練っているかもしれない
ニックの姿は、私たちにひとつの問いを投げかける。「もし15歳でAI企業を創れるなら、私たち大人は何をためらっているのだろうか？」
答えは簡単だ。必要なのは技術力ではなく、問いを持つ勇気と、それを形にする意志である。そしてその背中を、AIという強力な相棒が押してくれる。未来は、すでにここにある。
