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飛行機に乗るカンガルー動画はAI生成:2025年の拡散の経緯と見分け方

搭乗ゲートで搭乗券を握るカンガルーの動画は、AIで作られた映像でした。2025年6月の記事を一次情報で確かめ直し、元の投稿から今のAI動画の見分け方まで追いました。

Modern-G 編集部更新 約10分で読めます
線で描いた搭乗券のような横長の札に、読めない波線の文字列が並び、その右下に虫めがねの円が重なり、円の中心に小さな光の点が一つ置かれた、抽象的なイラスト
イラスト:Modern-G

空港の搭乗ゲートで、搭乗券を両手で握ったカンガルーがじっと立っている。その横では、飼い主らしき女性と係員が言い争っている。2025年5月末、こんな短い動画が世界中のタイムラインを流れました。

結論から言うと、この動画はAIで作られた映像で、実際の出来事ではありません。この記事は2025年6月に公開したものを、2026年10月に全面的に書き直しました。元の投稿はどこか、なぜAIだと分かったのか、本物のカンガルーは飛行機に乗れるのか、そして今、同じような動画をどう見分ければよいのかを整理します。

2025年5月末、何が拡散したのか

米国のファクトチェック団体Lead Storiesによると、動画が最初に現れたのは、Instagramのアカウント「infiniteunreality(Infinite Unreality)」の投稿です。Instagramのページの表示では投稿日は2025年5月25日、Lead Storiesなどは5月26日としており、時差による違いとみられます。キャプションは「No kangaroos on the plane(カンガルーは飛行機に乗れません)」でした。

アカウントのプロフィールには「Visual Effects Artist」「Your Daily Dose Of Unreality」とあり、動物がありえない場面にいる映像を投稿しています。インドのファクトチェック団体The Quintは、元の投稿にInstagramの「AI info」ラベルが付いていたと報告しました。つまり、出どころでは作り物であることが示されていたわけです。

ところが翌5月27日、Xのアカウント「DramaAlert」が、「Emotional support kangaroo rejected entry to plane(感情支援のカンガルー、搭乗を拒否される)」という説明だけを付けて転載しました(Lead Stories)。ここから「本当にあった騒動」として広がります。

再生回数は、どこで数えたかによって大きく違います。豪州のPerthNowの記事(2025年5月30日)は「4日で1,610万回」と伝えていますが、どのサービスでの回数かは書かれていません。Newscheckerは転載の一つのアーカイブで170万回を確認しています。元のInstagramの投稿には、2026年10月23日時点で約100万件のいいねと約1.4万件のコメントが表示されていました。

旧記事は、Xでの転載が7,460万回以上再生されたと書き、タイトルでは「7000万人が信じた」としました。このXの数字は、今回開けたページでもX上でも確認できませんでした。また再生回数は延べの回数で、人数ではありません。どれだけの人が本物と信じたかを示すデータもないため、この表現は取り下げます。

AIだと分かった4つのほころび

Lead Storiesは2025年5月28日、この動画を「FAKE」と判定しました。挙げた手がかりは4つです。

カンガルー動画がAI生成だと分かった4つの手がかりを並べた図。搭乗券の文字が読めない、人物が実在しない言葉で話している、係員の名札に名前がない、乗客の指輪が途中で現れる。
ファクトチェックが指摘した4つのほころび(模式図)。Lead Stories(2025年5月28日)によるModern-G作図

1つ目は、カンガルーが持つ「搭乗券」の文字です。文字列が崩れていて読めません。同団体は、意味をなさない文字をAI生成動画の典型的なサインとしています。2つ目は、言い争う2人の言葉で、どの言語にも聞こえません。3つ目は係員の名札で、名前が書かれていません。4つ目は乗客の左手で、何も着けていなかった薬指に、途中で指輪が現れます。

ほかの団体も同じ結論でした。The Quint(6月2日)は搭乗券とハーネスの文字が不鮮明で意味をなさない点を挙げ、AI検出ツールHive Moderationでは「AI生成またはディープフェイクの可能性99.9%」と出たと報告しています。シンガポールのBlack Dot Research(6月4日)は、音声つきの版では2人の声がこもってゆがんでいると指摘し、同アカウントの公式サイトがAIで動画を作っていると明記している点も確かめています。

どの生成AIで作られたのかは、確認できた範囲の報道では特定されていません。旧記事はGoogleの「Veo 3」に触れましたが、Veo 3は2025年5月20日に発表され、当初は米国の有料プラン(Google AI Ultra)加入者向けでした。音声つきの動画を作れるツールが一般に出始めた時期と重なるのは事実ですが、この動画がVeo 3製だという根拠はありません。

なぜ本物に見えたのか:文脈が外れて広がった

この件でいちばん学べるのは、映像の出来よりも、広がり方のほうだと編集部は考えます。元の投稿にはAIのラベルがあり、アカウント名も「無限の非現実」でした。それでも、転載の段階でその文脈が外れ、「搭乗を拒否された」という一文だけが残りました。

2025年5月25〜26日にAI制作のアカウントがAIラベルつきでInstagramに投稿し、5月27日にXで「搭乗を拒否された」という説明だけを添えて転載され、5月28日から6月上旬にかけて各国のファクトチェックがAI生成と判定した流れを示す図。
元の投稿から検証記事までの流れ(2025年)。日付はLead Stories、Newschecker、Instagramの表示によるModern-G作図

設定も絶妙でした。英国のLADbibleは、米国で2023年に「感情支援のワニ」を野球場に連れて行こうとした人がいたことに触れ、「感情支援動物(emotional support animal)」のカンガルーという話は、多くの人にとってそれほど荒唐無稽ではなかったのだろうと書いています。ありそうな話に、かわいい動物と、読み取れない口論。細部を確かめたくなる前に、反応したくなる条件がそろっていました。

似た構図の動画は、その後も続きました。Modern-Gでも、夜の裏庭でウサギが跳ねるAI動画がTikTokで広まった件や、実在しない絶景のAI映像を信じて旅に出た夫婦の件を取り上げています。

本物のカンガルーは飛行機に乗れるのか

「カンガルー 飛行機に乗る」と検索した人のために、現実のルールも確かめておきます。米運輸省によると、米国の航空会社が受け入れを義務づけられている介助動物(service animal)は、障害のある人のために訓練された犬だけです。感情支援動物や犬以外の動物は介助動物に当たりません。ただし航空会社が任意で、ほかの種類の動物を運ぶことはできます。動画の「感情支援のカンガルー」は、規則のうえでも搭乗を求められる立場にはありません。

一方で、カンガルーが客室に乗った実例はあります。米国の航空ブログView from the Wing(2021年1月17日)によると、アメリカン航空の地域便(PSA航空の運航)で、カンガルーの子どもが通路を跳ねる動画が客室乗務員の投稿で広まりました。アメリカン航空は、動物保護の取り組みの一環として、世話をする人と一緒に搭乗したと説明しています。こちらは2025年の動画とは別の、実際の出来事です。

いま、AI動画を見分けるには(2026年10月時点)

完璧な見分け方はありません。それでも、カンガルー動画の検証で使われた手がかりは、今も有効です。手がかりごとに、わかることと限界を並べます。

手がかりわかること限界
プラットフォームのラベルInstagram・Facebookの「AI info」、YouTube、TikTokのAIラベル申告や来歴情報が頼り。転載で外れる
映像の細部読めない文字、実在しない言語、途中で現れる物生成AIの進歩で減っていく
元の投稿最初の投稿者、アカウントの作風、キャプション削除されるとたどりにくい
確認ツールGeminiアプリでの透かし(SynthID)やC2PAの確認GoogleのAIや対応した機器・ツールに限られる

ラベルは、まず見るべき場所です。Metaは、写実的な動画やリアルな音声をデジタルで作成・改変して投稿する場合は申告を求めており、怠るとペナルティの可能性があるとしています。YouTubeも、現実に見える改変・合成コンテンツの申告を求め、C2PAのメタデータや社内の検出でラベルを自動で付ける場合があります。ただし、カンガルー動画のように、元の投稿にラベルがあっても転載や再アップロードで消えることがあります。ラベルがないことは、本物の証明ではありません。

映像の細部では、文字、言葉、小物の連続性を見ます。とはいえ、これは「見つかればAIの可能性が高い」という手がかりで、「見つからなければ本物」とは言えません。編集部としては、細部探しにこだわりすぎるより、次の「元をたどる」に時間を使うほうが確実だと考えます。The Quintも、画像の逆引き検索で元のInstagramの投稿にたどり着いています。

確認ツールも増えました。Googleの電子透かし「SynthID」は、GoogleのAIで作った画像・動画・音声・文章に埋め込まれ、トリミングやフィルター、圧縮などの加工に耐えるよう設計されているとGoogleは説明しています。Geminiアプリに画像や動画をアップロードして、GoogleのAIで作られたかを尋ねることができます。ただし判定できるのはGoogleのAIと、透かしを採用した提携先のものだけです。検出ツールの「99.9%」のような数字も、確率の推定であって証明ではありません。

迷ったときは、共有する前にファクトチェック団体や報道機関が取り上げていないかを確かめるのが近道です。AI動画の話は笑い話で済むことが多い一方、AIで作った人質映像を使う誘拐詐欺のように、実害につながる使われ方もあります。SNSにあふれる低品質なAI動画全体の話は、インスタのAI動画が気持ち悪い理由を整理した記事にまとめています。

その後の動き(2026年10月時点)

カンガルー動画のあと、AI動画をめぐる対策は「作った側が印を付ける」「見る側が確かめられるようにする」の2方向で進みました。確認できた主な動きは次のとおりです。

日付動き出典
2025年9月10日GoogleがPixel 10のカメラで撮った全JPEG写真にC2PAのコンテンツ認証情報を付けると発表Google
2025年9月30日OpenAIがSora 2を公開。全動画に見える透かしとC2PAのメタデータを付けると説明OpenAI
2025年11月19日TikTokがAI生成コンテンツの表示量を調整する機能のテストと、見えない透かしの追加を発表。ラベルを付けた動画は13億本超TikTok
2025年11月20日GoogleがGeminiアプリで、画像がGoogleのAI製かをSynthIDで確認できる機能を開始Google
2026年3月10日Metaの監督委員会が、ラベルの仕組みは自己申告に頼りすぎていると指摘し、AIコンテンツ専用の基準やC2PAの導入を勧告監督委員会
2026年5月19日GoogleがGeminiアプリでC2PAの検証を開始し、SynthIDの確認を検索に広げると発表。MetaはPixelで撮った写真・動画からInstagramで来歴を表示する予定と紹介Google
2026年8月2日EUのAI法第50条(透明性義務)が適用開始。AI生成物への機械可読な目印と、ディープフェイクの表示を求める欧州委員会

OpenAIのSoraのページには、2026年4月26日でSoraの製品は提供を終えたと記されています。Sora 2が出た当時の議論はSora 2を取り上げた記事、提供終了の背景はSoraはなぜ消えたのかを考えた記事で扱っています。EUについては、欧州委員会のページが、2026年8月2日より前に市場に出た生成AIのマーキング義務には2026年12月までの猶予があると説明しています。

全体として、AIで作ったものに印を付け、それを確かめる仕組みは1年あまりで確実に増えました。ただし、どれも「印が残っていれば分かる」仕組みです。C2PAの団体自身も、来歴情報はファイルから切り離されうると認めています。カンガルー動画で起きた「転載で文脈が外れる」問題は、2026年10月時点でも完全には解決していません。

まとめ:かわいい動画ほど、元の投稿を確かめる

2025年5月末に拡散した「飛行機に乗ろうとするカンガルー」は、AIで作られた映像でした。作り手は最初からAIのラベルを付けていましたが、Xでの転載で説明が付け替えられ、本当の騒動として広がりました。見破る手がかりになったのは、読めない搭乗券、実在しない言葉、名前のない名札、途中で現れる指輪です。

これからAI動画は、細部のほころびがますます減っていきます。驚いたときやかわいいと思ったときこそ、ラベル、元の投稿、ファクトチェックの3つを確かめてから共有する。それが、2026年の今も変わらない、いちばん確かな方法です。

Sources

  1. Lead Stories「Fact Check: FAKE Video Shows 'Emotional Support Kangaroo' Denied Entry to Plane」(2025-05-28) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  2. The Quint WebQoof「Fact-Check: Did This Kangaroo Try To Board a Flight? No, It's AI!」(Aishwarya Varma、2025-06-02) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  3. Newschecker「AI-Generated Video Of Kangaroo Waiting To Board Plane Fools Internet」(Kushel Madhusoodan、2025-05-30) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  4. Black Dot Research「Does this video show an "emotional support" kangaroo waiting to board a plane?」(Rebekah Lim、2025-06-04) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  5. The Nightly(PerthNow)「Millions left furious as viral video of 'support kangaroo' has shocking twist」(Fraser Williams、2025-05-30) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  6. LADbible「Truth behind viral video of woman trying to board plane with kangaroo」(2025-05-28) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  7. Instagram「Infinite Unreality on Instagram: "No kangaroos on the plane"」(2025-05-25) (2026-10-23確認、ページのメタ情報)(新しいタブで開きます)
  8. Google「Fuel your creativity with new generative media models and tools」(2025-05-20) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  9. Google DeepMind「SynthID」 (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  10. 米運輸省「Service Animals」 (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  11. View from the Wing「Baby Kangaroo Hops Down The Aisle Of American Airlines Flight」(Gary Leff、2021-01-17) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  12. Meta「Labeling AI-Generated Images on Facebook, Instagram and Threads」(Nick Clegg、2024-02-06) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  13. Meta「Our Approach to Labeling AI-Generated Content and Manipulated Media」(2024-04-05、2024-07-01と2024-09-12の更新を含む) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  14. YouTubeヘルプ「Disclosing use of altered or synthetic content」 (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  15. Google「How Pixel and Android are bringing a new level of trust to your images with C2PA Content Credentials」(Eric Lynch、Sherif Hanna、2025-09-10) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  16. OpenAI「Launching Sora responsibly」(2025-09-30、2026-04-26の提供終了の注記を含む) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  17. TikTok Newsroom「More ways to spot, shape and understand AI-generated content」(2025-11-19) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  18. Google「How we're bringing AI image verification to the Gemini app」(2025-11-20) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  19. Oversight Board「Board Calls for New Rules on Deceptive AI During Conflicts」(2026-03-10) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  20. Google「Making it easier to understand how content was created and edited」(2026-05-19) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  21. 欧州委員会「Quick Facts: Transparency rules for AI systems」(2026-07-29更新) (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)
  22. C2PA「FAQ」 (2026-10-23確認)(新しいタブで開きます)

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